歴史

銀河鉄道の父

宮沢賢治の父親政次郎が主人公。厳格な明治の父、古い商家のしきたりで本人は小学校卒。質屋を経営し財を成し、地元の名士である。5人の子供の父親として愛情にはあふれて、常に気にかけてはいるが、表には出さない。特に自由奔放な賢治とは折に触れて衝突…

ダビテの星をみつめて

ユダヤネットワークの力の根源を解析する。歴史上幾たび絶滅の危機を経験したユダヤ民族は、世界中で経済、政治をコントロールする。根本の行動原理は高付加価値主義と国際主義である。ソ連の崩壊に伴い、東欧から新たな移民がイスラエルに流れた。現在は、…

日中友好侵略史

国交正常化から50年。中国のしたたかな対日工作を明らかにする。文化大革命で疲弊した中国は必死で正常化を望み、台湾を国際社会から排斥した。本書のクライマックスは田中訪中と椎名訪台である。日本は性善説で初心であり、当時から軽くあしらわれている…

はじまりの島

ガラパゴス諸島に上陸したビークル号の乗員たち。次々におこる連続殺人の謎ときにダーヴィンが挑む歴史ミステリー。背景には当然ながら進化論の発見と神学との問題がある。非常にオーソドックスな孤島の設定。登場人物がやや多いところは仕方ない。エンタメ…

足利義満消された日本国王

足利三代将軍義満の晩年に迫る。明と外交を通じ、日本国王の称号を受ける。これが天皇を蔑ろにした行為であると、皇国史観論者から批判の対象になる。著者は実力的にはむしろ、天皇家は眼中になく、東アジア全体を見据えた大きな構想を持っていたのではない…

武漢コンフィデンシャル

コロナを題材としたフィクション。武漢を根城にする英雄の一族は文化大革命の迫害を避けるため息子一家を香港に逃がす。謎の麗人になった孫娘が財力を活かして復讐にかける。英米の諜報機関を巻き込んでの謎解き。汝窒の対の青磁がキーアイテムになる。緊迫…

サピエンスの未来

1997年に東大で行われた伝説の講義。本書はその後半をまとめる。主役はカソリックの司教でありながら、古生物学者のテイヤール、ド、シャルダンの著作を紐解く。人間や地球の進化。そして未来を予測する。個体ではなく人類全体が精神圏を形成し進化して…

目で見る日本史

タイトル通りの内容。古代から近代まで日本史の舞台となった地点を写真で撮影。簡単な説明をつけて解説。ビジュアルは非常に説得力がある。行きたいところもいくつか。歴史好きには愉しめる内容。 -子規庵 -旧吉田茂邸 目でみる日本史 作者:岡部 敬史 東京書…

定価のない本

戦後直後、神宝町の古書店街を舞台にしたミステリー。連続殺人の謎解きが、GHQが絡んだ文化政策に波及する。日本の歴史を抹殺したいGHQと古書店主の対決が主題。商売を離れて、歴史と文化の力を見せつける神保町の心意気。一気に読めた。甘めのA評価。 定価…

仮面を取った浦島太郎

浦島太郎は単なる昔ばなしではなく、古代史に基づく伝承であるとする著者の自説を検証する。冒頭に7つの謎を提示。一つ一つつぶしていく構成。舞台は古代に栄えた丹後の国であり、蓬莱山は渤海の秦の遺跡を挙げるなど斬新な発想。旧豪族を征服した大和朝廷…

中二階の原理

日本社会の特性を際立たせる著者の新たな議論。歴史から紐解き、二階の原理と現場のねじれを中和する中二階の存在を指摘する。具体的に言えば実権を持たない天皇制の存在が代表例。廃藩置県と戦後の農地改革を最小の流血で乗り切ったのもこの緩和剤があった…

格差の起源

世界史を大きく俯瞰し、人類の発展(第1部)と格差(第2部)の起源を探る。成長の最大要因は産業革命と人口転換。機械化により人間は単純労働から解放され、量から質への転換が起こり、「マルサスのくびき」から解放された。格差は地形の問題と、出アフリ…

インディオの聖像

1980年代、著者が若い折の南米取材がベース。イエズス会が主導したインディオたちのキリスト教社会。その遺跡と聖像群を訪ねる。ほとんど知られてないがその素朴な精神性と独自の解釈は目を見張るものがある。大航海時代の南米はヨーロッパによる大虐殺…

エレクトリックシティ

第一次大戦後、自動車王フォードが夢見た壮大な構想。テネシー川のダムと水力発電から一大工業都市を建設する。元々は陸軍主導のアンモニア工場。終戦で火薬は不要になり、肥料工場として買取る計画。政争の道具とされ結局実現せず。電力開発は官営か民間化…

美術の物語

古代からポストモダンまで美術史を俯瞰する大著。この分野では圧倒的に支持されるバイブル的な存在。美術の流れを時代別に追う。建築、絵画、彫刻の分野を網羅。美術が過去を参考にしつつ、新しい流れに乗り発展していった変遷が良く理解できる。有名な作例…

撤退戦

近代戦史の中から9例を精査。最も困難を極める撤退戦の成功と失敗の実例を考察する。どうしても組織の各レベルで判断は遅れがちで状況を悪くする。筋の通った命令系統が必要。現場は正確な状況報告、トップ側は部下を慮ることなく冷徹な判断が求められる。…

失敗の本質を語る

著者の自叙伝。種本は私の履歴書。名著「失敗の本質」からその後の研究人生を振り返る。組織論、知識創造論。を極め独自のSECIモデルを展開。米海兵隊を自己変革する理想のモデルとする。私も考えたら結構読んではいる。特に後半生は哲学的要素も加わり、抽…

東京裏返し

東京の北東部に焦点を当て、その歴史的価値を再評価し、将来の展望を探る。東京は家康、明治維新、終戦と3度の占領を経て、中心部が北東部の台地から南西部に移った。今後は時間軸を再考し、トラムと水運の時速10km強のスロー化を提案する。具体案はトラムの…

遊戯神通

絵師若冲を題材にした歴史小説。明治期にその子孫である芸妓がいたことからストーリを展開。生涯独身であった若冲に妻と子供の存在を見る。主人公はこちらは末弟の妻となる美形の女性。末弟は実は若冲の実子なのだが、若くして謎の死を遂げる。ヒロインは若…

世界史は化学でできている

表題通り、人類の歴史を化学の発展の面から振り返る。各分野毎に時代を追う形になっており、火の発見から、食料、染料、エネルギー、原子力まで網羅。長い歴史に比べれば、プラは最近のことであることがわかる。進歩に貢献する光の部分と軍事や環境破壊とい…

宗歩の角行

将棋ミステリー。江戸末期の天才棋士天野宗歩がモデル。謎の死を遂げた彼の生涯を追って、対戦相手や関係者に聞き取りにより、その人物像を明らかにしていく。定石を無視した火のような攻めと、生活能力は破綻。酒の力によりようやくコミュニケーションが取…

古代中国の24時間

秦漢の時代。中国人の生活を一日24時間を追う形で記述。脚注にまとめられているが膨大な資料からの抽出。現代の視点から見て変わった点と意外と変わらない点がある。個人的には後者の方が多い。皇帝の絶対権力、男女の格差はさすがにどうしようもないが、…

黛家の兄弟

舞台は江戸中期の架空の小藩。家老の息子として生まれた三兄弟。末弟は大目付の家に婿入り。遊び人の次男が次席家老との権力争いに巻き込まれ、切腹させられることになる。十数年を経て再燃する政争に、見事な策略で挑む。ここまで白黒をつけるとは想定以上…

興福寺の365日

エッセイ。堂宇や寺宝の写真とで構成される。著者は現役の興福寺執事。管理室長として日頃の経営や美術展に携わる。最大のイベントは中金堂の再建。寺の内側から見た修行や布教の状況。信仰と観光経営のバランス。文章は簡潔で歯切れは良い。清々しい読後感…

エーゲ

ギリシャからトルコへ。エーゲ海を一周する紀行文。テーマは遺跡と文明。キリスト教の浸透により古代文明は歴史に埋もれていく。遺跡にたたずみ記録に残らない歴史を感じる。若かりし知の巨人は宗教論、哲学論を語りたいところだが、筆は淡々と抑制的である…

過去を巨視して未来を考える

NHKーBSの番組「ズームバックxオチアイ」の放送内容本。NHKの膨大な歴史アーカイブ映像と現代の知性を代表する著者の取り合わせ。混沌のコロナ化の時代を過去の事象を参考に未来を予測する。的確な指摘と解析は斬新でさすがである。人間社会の根本は不変…

夢見る帝国図書館

上野公園で知り合った老齢の女性。不思議な雰囲気と過去を持つ。キーとなるのは帝国図書館。その歴史を振り返れば、戦争に振り回された激動の時代。その中で蔵書を増やし、守り、名だたる文豪たちに愛されてきた。語り手である作者の分身である小説家が老女…

和らぎの国

女帝推古天皇を主人公とする時代小説。皇族の後継争いと豪族間の権力闘争が繰り返される飛鳥の時代。女性でありながら政治感覚に長けた皇太后が皇位を継承する。聖徳太子と竹田皇子の補佐を受けながら、和を重視し大和を文明国へ変身させる。内政では蘇我馬…

同志少女よ敵を撃て

独ソ戦を舞台にした戦史小説。実在したソ連の女性狙撃兵部隊がモデル。故郷の村をドイツ軍に蹂躙されたヒロインが復讐のためにスナイパーとなる。厳しい女性教官のもとに養成され、スターリングラード、ケーニヒブルグと激戦地へ駆り出される。見方からも狙…

中央線がなかったら見えてくる東京の古層

東京西部で圧倒的な存在感を有する中央線。現代はその駅を中心に街が発展しているが、建設時は疎まれ丘陵を直線的に西に向かったのは有名な話。江戸時代までは青梅街道、甲州街道と南北を結ぶ街道沿いに街は発展した。街歩きのキーワードは古道、水系に西域…