生活

人はどう老いるのか

著者は作家であり医師である。ディケアセンターで多くの老人たちの症例に接する。前半はエピソードの羅列。中盤から現在の医療の限界を明示。誰もが避けられない老いと死への準備を説く。結論は全てを泰然と受け入れること。これには全く同意する。良くここ…

スピノザの診察室

舞台は京都。有能な消化器内科医師である主人公は、早世した妹の遺児を育てるため、医局を辞し、街中の病院勤務医となる。老人患者が多く、看取りを重ねる日々。哲学に造詣が深く、医学の持つ意味を持つ意味を常に問う日々。クライマックスは子供の内視鏡手…

夜が暗いとはかぎらない

大阪近郊が舞台。閉鎖が決まったマーケットのゆるキャラが失踪。その後周辺に出没し、話題となるが、主題は様々な人間模様。13編の連作だが、基本は暖かなもの。お約束通り、最後に関連付けようとするが、少し欲張りすぎか今一つ関連がよくわからない。ゆ…

ブギの女王笠置シヅ子

ブギの女王笠置シヅ子の伝記。SKDのレビュー出身。戦前はスイングの女王として、戦後は「東京ブギウギ」が大ヒットする。喜劇役者としても実力を発揮。ある年齢で歌手から引退、脇役として過ごす。個人としては吉本の御曹司と恋愛、相手の早世により未婚の母…

墓じまいラプソディ

主題は墓じまいと夫婦別姓。先立たれた妻に嫁ぎ先の墓には入りたくないと遺言されたところからドタバタが始まる。一方適齢期を過ぎた孫娘二人は、結婚後の姓の問題で結婚に踏み切れずにいる。家族の固定観念に固まった男性陣を女性目線でするどく批判。ある…

野球短歌

阪神ファンの著者が、突然思い立ち、2022年のシーズン全試合を短歌で詠む。開幕9連敗から奇跡の復活をし、CSまで進出した激動のシーズン。試合終了後5分を目途に吟じるとのことで、臨場感とファン心理がよく出ている。選手の実名も多く出て来て実に愉…

栄光のバックホーム

将来を嘱望されながら、脳腫瘍で現役を引退。引退試合での「奇跡のバックホーム」で周囲を驚かせた阪神の横田慎太郎。本書はその驚きの人生を母親への取材から描いたノンフィクション。名門鹿実のエースで4番。プロ選手だった父親譲りの才能に加え、若いころ…

ツナグ想い人の心得

続編。死者と生者を繋ぐ使者役である主人公。社会人になり木工デザイン会社と使者役の2足の草鞋を履く。全5編の連作。それぞれにサプライズプロットが用意されるところは流石。自らの恋話もあり引き込まれる。設定を知っているのでやはり前作ほどの衝撃は…

人生が楽しくなる世界の名画150

著者がヨーロッパ駐在時に通いまくった美術館からお気に入りの名画を抽出して照会。趣味ははっきりしていて、ルネッサンスからロココまで。印象派以降は趣味に合わないとのこと。また裸体を含めて美女がお好みと正直に吐露。ルーブル、ナショナルG,ウィフ…

宮部みゆきがおすすめした本

読売新聞の書評欄。2015-2019年分。洋の東西を問わず小説からノンフィクションまで幅広い。美術関係も何冊か目を引く。少し古いが興味をひくタイトルは多数。図書館の予約が入り、急遽読破。 宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本 2015-20…

成瀬は天下を取りに行く

滋賀、大津、膳所が舞台の青春小説。ヒロイン成瀬は型破りの天才少女。すべてに才能を発揮するが、周囲の評判は一切気にせず、独自の哲学で邁進する。同じマンションの親友が良いパートナーとなり、漫才コンビを組む。中学生から高校卒業までを描くが、恋愛…

キャラクターたちの運命論

大ヒットした少年漫画5編を取り上げ、民俗学的な検証を行う。主人公ではなく脇役に焦点をあてる。いずれも原作を完全には読んでいないので今一つ理解が進まない。逆にマンガ自体がよく構成され、それは伝承文学にも通じていることに感心する。 キャラクター…

文庫旅館で待つ本は

連作集。小さな旅館が舞台。戦前の蔵書からなる文庫があり、若女将が客の悩みに応じた一冊を推薦する。同じ匂いをかぎ分ける特殊能力のなせる技。全5編の前半は軽めだが、後半にかけて重みを増し、最終編は文庫の成り立ちまで遡る。それぞれの1冊があるが…

一日一文

古今東西の名著を365日分紹介する。範囲は哲学から詩歌まで幅広い。有名どころはほぼ網羅されているが、非常に短い引用なので、逆に主張がわかりにくい。スタンプラリーのお供で読破。 一日一文 英知のことば (岩波文庫) 岩波書店 Amazon

旅する練習

小説家である著者とサッカー少女の姪が、我孫子から鹿島まで利根川沿いを徒歩で下る。著者が風景を描く間に、姪はリフティングの練習。快活な彼女が旅を朗らかなものにする。途中知り合った女性との出会いと別れが、少女の心の成長を導く。ところがラストは…

90歳の人間力

人生訓。短めの文章で人の生き方を簡潔に諭す。全編を通じて、失敗が人を大きくする。恐れずに挑戦することを強調。日本人は目で考える、すなわち外見や名前に惑わされ、本質を見極める力が乏しいとの指摘。既出の著作からの焼き直し。ご本人は2020年に逝去…

バスクル新宿

新宿バスターミナルを発着する長距離バスを舞台にする連作集。各編軽いミステリー仕立てで、思わず引き込まれる早い展開。結局はみな良い人たちで、ハッピーエンドのメルヘンタッチ。エンタメとしては楽しめた。巨大バスターミナル自体への興味が少し湧いた…

祖母姫ロンドンへ行く

祖母と孫の豪華なロンドン旅行記。ファーストクラスで飛び、バトラーのつく一流ホテルに滞在するというからかなりの富裕層。上流の貴婦人であった祖母は、老齢もあってマイペースというか我儘。著者は振り回されるが、夜はバットガールになり留学時の旧友に…

車のある風景

愛車遍歴エッセイ。編曲家として名を馳せているが稀代のカーマニアでもある。高校生の時に軽免許を取得。以来何十台もの車を乗りこなす。収入の増加に従い、外車にシフト、中でもマニアックな選択が多い。少し庶民とはかけ離れた世界だが、車あるあるはくす…

缶詰だよ人生は

缶詰博士のエッセイ。自らの生い立ちから、缶詰レシピまで。軽めの文章と素朴なイラスト。軽めの内容だが、常識の範囲内でもう一つ足りない。もう少し缶詰紹介に特化しても良かったのではないか。時代的にはマッチするので懐かしい部分はあった。サバ缶とヤ…

夜明けを待つ

エッセイとルポルタージュ集。生と死、日本語教育、宗教と結構重いテーマを扱ったものが多い。淡々とした記述で、本質、真実にまっしぐらに進む作者の真骨頂。本人は希少がんを患い、余命短いとのこと。好きなノンフィクション作家。惜しまれる。 -ダブルリ…

もしもしアッコちゃん

自伝エッセイ。九州の電電公社一家に生まれ、子供のころは転校を繰り返す。両親とも兄弟が多く。親戚にも恵まれる。宮崎西高校から、金沢美大へ。漫画家への夢はもつもののガツガツはせず、応募第一作が採用される幸運。才能豊かなのだろう。傍らにはつねに…

老いてこそユーモア

ユーモアに関するエッセイ。実例を示しながら、古今東西の笑いを考察する。バックにあるのは圧倒的な教養。ネタの対象範囲は広いが、エスプリに思わずにんまりさせられる。繋ぎの一冊としては十分な内容。 老いてこそユーモア (幻冬舎新書 あ 17-1) 作者:阿…

老いては好きにしたがえ

老境に入った著者の人生実践論。絶頂期にお笑い界から転換。ボクシング、絵画、ヨガをそれぞれ極める。それぞれゼロからのスタートだが、反復練習で頂点をめざす。現在は納得の上離婚。一人暮らしは一日一食の宗教者のような暮らし。決して枯れたわけではな…

殺人者たちの午後

イギリスのノンフィクション。殺人犯に著者がインタビューを行い、殺人の実際とその後の収監、思うところを赤裸々にする。イギリスでは死刑は廃止、殺人罪は終身刑となるが、刑期は短縮され厳しい監視のもとに社会復帰が図られる。10例が示されるが、恵ま…

おあとがよろしいようで

大学の落研が舞台。新入生の主人公はコミ障で孤独な学生生活を覚悟していた。新歓で誘われた落研に入部。仲間に恵まれ一気に人生が展開していく。特に部長は自分に似た性格の新入生をほっておけず、自らの過去をさらして導く。よくある青春感動モノであるが…

語前語後

エッセイ集。数学系の雑誌への連載。Volemeは毎回違うようだ。世相を斬り、芸術を語る。ユーモアも忘れない。著者の主張は極めて常識的で、ともすれば行き過ぎてしまう世間にブレーキをかけるスタンス。納得感はある。巻末は数学者森毅氏との対談。いずれも…

化け込み婦人記者奮闘記

明治から戦前にかけて、婦人記者の潜入取材を描く。女性の地位が低く、また記者の立場も決して高くない時代。部数獲得のために社会の下層実相を描く。読者は興味本位であり、あまり本質に迫るルポにはならない。若い女性にはどこでも芸者やその筋への勧誘が…

目の見えない白鳥さんとアートを見にいく

全盲の白鳥さんとのアート鑑賞貴。健常者が美術をまえに見た印象を会話することで、想像を膨らますようだ。面白い体験記が続くが、テーマは意外と統一性がなく、芸術論から優勢主義や差別の問題まで幅ひろく広がる。つきつめれば求められるのは人間同士の関…

夢ノ町本通り

これまで世に出した多数のエッセイから、書物、読書に関するものを再編成。膨大な読書歴の遍歴がつづられる。さすがに時代的には古いものも多く、書評欄では図書館にはない作品が並ぶ。中盤の本を編むではみずから編集に携わった山本周五郎の作品紹介が続き…