2019-01-01から1年間の記事一覧

線は僕を描く

水墨画の世界を描くフィクション。主人公は両親を事故で亡くし、失意のうちにあったが、バイト先で巨匠に見出され、内弟子になる。技巧では無く、芸術の本質に迫ることが主題。自然体で対象の持つ美を極める。水墨画は唯一直しの効かない絵画。小説としては…

外国人依存ニッポン

急増する日本在住の外国人。公開データからその実像を探る。農村や漁業では欠くことの出来ない存在。引き留めのために研修生の待遇は大きく改善されている。問題は教育と老齢化。一部解決策は示されるものの十分ではない。労働力ではなく人間として迎える姿…

夜行

不条理ミステリー。6年前に起きた鞍馬での失踪事件。当時のサークル仲間が集まり、それぞれの奇異な経験談を語る。共通するのは「夜行」という名の銅版画。異世界への入り口になっている。最後は予想に反したどんでん返し。表裏完全な二重世界が現れる。一…

大泉エッセイ

著者の若い頃のエッセイ集。地元北海道の雑誌に連載。学生の演劇部から劇団さらにマルチタレントへと成長の軌跡を描く。若いころは勢いで書いている部分もあるが、確かな文才は感じる。よくネタにされる祖父をはじめ、ユニークな家庭だったようだ。滲み出る…

新説坂本龍馬

タイトル通り、一次資料を再研究することで、龍馬の実像に迫る。司馬史観により英雄化されたと作者はするが、結論的にはあまり大きな差は感じられない。人物の大きさやネットワーク構築力は高評価。目新しいのは薩摩藩の庇護の大きさ、近藤長次郎の高評価と…

国家の衰退からいかに脱するか

前半はアベノミクスとトランプに代表される自国第一主義、ポピュリズムを徹底批判。終章でその打開策を提案。持論である道州制、個人資産の活用、教育改革を強調。AI導入による加速を図る。平成維新を唱えて30年。ブレはないが、実現していないのも事実。…

幸せになる百通りの方法

短編集。原発やオレオレ詐欺など時事ネタを織り込みながら、ユーモアとペーソスあふれる作品が並ぶ。ベースにあるのはほのぼのとした家族愛、人間愛でほっとさせられる読後感。得意な分野であろうが、安定感は抜群。 幸せになる百通りの方法 (文春文庫) 作者…

私はいったい、何と闘っているのか

主人公は地方スーパーの中堅社員。好人物なのだが妄想癖に近い思い入れで、結果がついてこない。中盤から家族の物語を絡めたところが秀逸。夫人と子供たちには立派な司令塔。考えたら他愛無い内容。お笑い芸人出身の著者の作品を読んでみたかったというとこ…

売上を減らそう

夫婦で京都西院でステーキ丼店を経営。一日100食限定。目的は働き方改革。様々な事情を抱える従業員を定時に返す。拡大路線はとらずぎりぎりの経営。地震や水害の際はさらに50食まで売り上げを落とす。チェーン展開でこの動きが拡大するか注目。斬新な…

超訳日米戦争

戦前の空想小説を現代語訳し、さらに著者独自の解題を付ける。当時としては荒唐無稽の小説だが、世界情勢を冷静に俯瞰し、メキシコの参戦により日米痛み分けの結末になっている。現代に置き換えると情報戦での出遅れと反知性主義の蔓延を懸念。日本としては…

インドが変える世界地図

急速に変化、発展をとげるインドの政治、経済、社会をモディ首相を追いかけることで描き出す。グジャラート州での実績と巧みなキーワードの創出で、選挙で大勝。斬新な改革を断行する。複雑な民主主義、宗教問題、近隣諸国との紛争と課題は山積みだが、3Gの…

小さいおうち

昭和初期。東京近郊の中流階級に奉公した女中さんが主人公。美しい奥様と小児麻痺の長男に献身的に尽くすが、微妙な関係が秘される。戦争の時代で本人は故郷に返されるが、夫婦は大空襲で命を落とす。彼女の記録がやがて謎を明かすが、真の答えは読者の想像…

ダヴィンチコードの謎を解く

大ヒット小説の解説本。キーワードを拾い上げ、辞典的に網羅。キーとなるのは秘密結社であるシリス修道会。キリストとマグダラのマリアは夫婦であり、その血脈が存在するとする。キリスト教宗派の歴史と教義は難解であるかと恐れたが、平易に理解できるよう…

阪堺電車177号の追憶

阪堺電車の最古車両である177号を舞台に展開される人間ドラマ。戦前から戦中、戦後の高度成長、バブル崩壊を超えて現在まで物語を紡ぐ。連作の形をとり、独立した各編が実は伏線になる構成。秀作だが後半少し無理があるかな。まあ楽しめた。 阪堺電車177…

下戸の夜

主として出版界の下戸たちが、日頃の暮らしぶりや思うところを記述。逆に酒飲みや酔っぱらいの生態を冷静に見ている姿が示される。歴史上意外な人物が下戸であり、探求すれば面白いかも知れない。雑誌への連載を単行本化。気楽に愉しめた。 下戸の夜 作者: …

踊る町工場

富山高岡の能作。零細な鋳物工場だったが、著者が婿として入り大改革。自社製品の開発から産業観光化。見事な変身を遂げる。かなりのカリスマで人たらし。「旅の人」らしく既存概念にとらわれない。ひと、もの、こころで「伝統産業に轍をつける」を目標にネ…

なでしこの告白

未だに記憶に残るなでしこの快挙。ドイツワールドカップの優勝直後に専門誌に連載されたインタビュー記事。全21選手を網羅。誰もが強調するのは一体感と団結力。強豪との勝負は紙一重。澤の存在感の大きさが奇跡を呼び込んだか。今読んでも感動がよみがえ…

ヒキタさんご懐妊ですよ

メディア: この商品を含むブログを見る 白髪の中年男性である著者が、齢の離れた妻と不妊治療に挑む。本作はその経緯を克明にルポ。タイミング法から人工授精、さらに顕微授精となかなか難航。ようやく恵まれたと思ったら流産。さらに障害児の恐れと難関は続…

覚悟の磨き方

副題にあるように吉田松陰の著作を現代訳し、テーマごとに構成。繰り返されるのは学問と同時に、実行を伴うこと。弟子を友人として扱う熱く優しい人柄も垣間見え、短期間に多くの人材を育てたのもうなずける。やや訳が平易に過ぎるような気もするがそこは意…

ボッティチェリの裏庭

名画ミステリー。幻のビーナス図を巡り、創作時、ナチスによる強奪、現代での発見と時空を超えて物語は進行する。最後に2重のどんでん返しがあり楽しめる。重厚なプロットではあるが、若干盛り込み過ぎで進展は早くない。期待にたがわず楽しめた一冊。 ボッ…

リスタート

1964年の東京オリンピックを題材とした短編集。市井の女性の生活、人生に与えた影響を短編にして描く。まだまだ女性の地位は低く、結婚して専業主婦になることが当たり前だった時代。自立を模索し力強く前を向く彼女たちを生き生きと登場させる。なかな…

危険な美学

美学の持つ危険性を一般向けに訴える。例に出すのは作詞によって戦争協力者となった高村光太郎と宮崎アニメの「風立ちぬ」。美しいものは感性に訴え、真(知性)、善(理性)の価値判断を超越する力がある。芸術家は無意識のうちに美を追い求めるうち、美自…

不思議な鉄道路線

明治初期鉄道路線の決定に際して、常に存在した陸軍の圧力。海岸線を外し、内陸に敷設することを強く要求する。経済性からほど遠いが、それだけ海外勢力への脅威があったことの査証。奥羽本線と現肥薩線が代表例。会議録等の原文引用が多いが、さすがにスキ…

カモフラージュ

短編小説集。不倫ものに始まり、不条理な世界まで。バラエティーに富んでいてなかなか楽しめる。話題先行かと思いきや、文才、実力も相当なもの。どうしても作者のビジュアルがちらつくが、それは別にして評価すべきなのだろう。 カモフラージュ 作者: 松井…

ニュータイプの時代

全篇を通じて強調されるのは、問題解決型のオールドタイプでは無く、問題発見型のニュータイプへの人材転換。特に日本は苦手とする分野で、経済発展の重しとなっている。新しい技術、開発、展開には社会的な意味づけが必要。セグウエィの失敗はそこに起因す…

月を見てパンを焼く

著者は一人で通販ベーカリーを運営。一日14組限定で販売。5年先まで予約が埋まっているという。月齢に従い、パンを焼く日と食材を求めての旅の日を割り振る。リクルート時代に培った人脈と、厳しい修行で身に着けた職人の腕。あくなき探求心。何よりパン…

革命と戦争のクラシック音楽史

標題の通り、新たな視点でクラシック音楽をとらえる。名高い芸術といえども時代の背景、流行には敏感であり、特に激動期にはその傾向が強い。フランス革命とナポレオンの時代は音楽にも変革を促した。音楽は近代的な軍隊の統率に使われ、やがて民衆の支持を…

オートリバース

小泉今日子の親衛隊が舞台。デビューからベストテンで1位を取るまでを追う。昭和の時代。組織は不良少年のたまり場で、ともすると暴力的な縦社会となる。主人公の親友は実行力でのし上がるが病魔に倒れる。アイドル本人もラストで登場する。一気に読める作…

新章神様のカルテ

久々の続編。父親となった主人公は大学院生の立場だが、副班長として医局で奮闘する。管理側と若手医師の板挟み。周囲には変わり者と思われているが、温かい人柄と正義感で隠れファンも多い。若くして膵臓がんを患った母親に最期まで寄り添う。医局の抱える…

マイ仏教

幼い頃から仏像に魅せられ、寺の住職になりたかったという著者。仏教系の中高で青春時代を過ごす。前半でそのエピソードを散りばめて笑わせ、後半は現在の仏教感を語る。意外と真面目な内容。自らの中にマイ住職、マイ仏教を持つことが人生を生き抜く糧とな…