2008-01-01から1年間の記事一覧

戦略の本質

名著「失敗の本質」の続編にあたる。過去の戦史から大逆転劇と呼ばれる転回点となった6例をあげ、勝敗を分けた両者の戦略を分析しその要因を明らかにする。戦略は大戦略/軍事戦略/作戦戦略/戦術/技術の重層構造であり、それぞれが連動すると同時に、相…

チベット問題

3部構成。第一部はダライラマ法王と側近のインタビュー。チベット仏教は輪廻と転生を教義としており法王そのものが活仏である、オープンで快活な人柄であることはよく伝わる。深遠な奥義にせまろうと試みるが、正直消化不良は否めない。第2部は亡命者たち…

死神の精度

連作集。「調査部」に所属する死神くんが人間に化けて、死の直前の対象者の調査を行う。「可」と判定された場合は何らかの形で死を迎えるという奇抜な設定。死神と対象者の不思議な会話の中で、現代社会を浮き彫りにする。ミステリありロマンスあリヒューマ…

三井物産のシンクタンクの専門家による近未来予測。出版は2008年3月。豊富な数値データを示し、中国バブル経済の危うさを的確に指摘しつつも、崩壊は2010年の上海万博後とする。現実ははるかに速いペースで危機が来ている。執筆時期からいって責めるのは酷。…

ナイチンゲールの沈黙

メディカルミステリー第2弾。田口/白鳥の名コンビが小児科の患者の不逞の父親の殺人事件の謎を解くが、犯人およびトリックは途中で暗示される。読者としてはむしろ同情し救いを願う構成。最新の医療技術に加えて、音楽を視覚化できる特異な才能を持つ二人…

雅子妃悲運と中傷の中で

著者は皇室ジャーナリスト。雅子妃の健康問題とその原因を掘り下げる。オーソドックスな手法で妃殿下の生い立ちからご成婚。東宮御所をとりまく人間関係を分析しルポする。皇太子殿下の「人格否定発言」がエポックメーキングであったが、事態は深刻で家族を…

ベルカ吠えないのか

日本軍によりキスカ島に置き去りにされた軍用犬。その血統を引き継ぐ犬たちの数奇な運命を描くフィクション。冷戦の狭間で、米ソにわかれあるものは軍用犬として利用され、ベトナムやアフガンでの戦いに投入される。冒頭の犬たちの系譜が示すように壮大なプ…

バスジャック

短編集。長短あわせて7作。いずれも通常では説明できない不条理な設定をベースにしているが、優しい不条理である。奇抜な設定で読者を引き込み硬軟おりまぜた主題に導く。このあたりは作者の得意とするプロットなのでろう。文章は使われる言葉が厳選されて…

危機の宰相

文芸春秋に77年に掲載されたノンフィクションが27年の歳月を経て単行本として世に出た。色あせない見事な作品である。60年安保の混乱から「所得倍増」をスローガンに日本を高度成長に導いた池田勇人。彼を支えたブレーンである下村治と宏池会の事務局…

ピカソ魂のポートレート

定時で退社してサントリー美術館へ。ここは実は初めて。ポートレートを中心に画家自身の愛憎に満ちた人生を振り返る構成。もちろん充実した内容なのだだが、今ひとつ印象が薄いのは前回と同じ。既視感があるのか、期待感が大きすぎるたのか。初期の作品と晩…

ドミノ

東京駅を舞台とするジェットコースター小説。なんと27人と一匹が登場しそれぞれの事情を抱えながら入り乱れる。中心になるのは爆弾テロだが、緊迫感はほとんどなくスピーディーな展開で読者を引き込み、登場人物のユニークなキャラクター設定で笑わせる。…

国語辞典の名語釈

明治から現代までの国語辞典の変遷をひもとき、それぞれの時代を反映する語釈を引用する。際だつのは予想通り戦前から戦中にかけてのもの。文語調から口語調への変遷。それぞれの編者の言葉に対する想いが描けているが、著者自身が述懐しているようわずかな…

犬のしっぽを撫でながら

エッセイ集。テーマは自らの作品、小説家としての苦悩と家族、飼い犬との私生活や幼少時の思い出と多岐にわたる。夢多き少女でありそれが現在の創作の原点となっているそうな。当然ながら読書家であり書物に対する想いは人一倍。全体としてほんわかした雰囲…

女湯のできごと

著者のエッセイ+シンプルな漫画、幼少時からのお風呂屋の思い出がほのぼのと描かれる。男には未だにうかがい知れない独特の世界。そこは彼女たち利用者にとっては全く生活の場である。様々な人間観察や細かいこだわりには苦笑させられる。癒し系の1冊。女…

日本を降りる若者たち

カオサンを中心に巣くうバンコクの日本人たちの近況をレポートする。旅行者ではなくかっての「バンコク沈没」が、「外こもり」に変化しつつある。日本で短期間稼ぎ、その資金でタイで生活する。他界との接触をさけアパートにこもる若者たち。個人へのインタ…

ピカソ展

パリのピカソ美術館所蔵の作品群の展示。一度訪れているので観ている作品が多いはずであるが、あまり印象に残っていない。年代を追いながら作風の変遷を追う構成。生涯に愛した女性は7人。初期の作品と戦争前後の肖像画に惹かれるものが多い。晩年の作品は…

勃発エネルギー資源争奪戦

新興国の急速な発展によるエネルギー需要の高まりにより、国家間の争奪戦は激しさを増している。本書は専門家が資源、環境、原子力の観点から最新情報と近未来予測を述べる。最終章の日本のとるべき戦略としては、「技術力を武器にエルギー戦略を立案、安全…

となりのクレーマー

著者は西武百貨店のお客様相談室長。長い経験から培ったクレーム対応を実例をあげながら伝授する。愉快犯、躁鬱タイプ、ヤクザとさまざまなタイプが紹介され、それぞれに応じた硬軟織り交ぜた対応は見事。通常の苦情と常習的、意図的なクレーマーは明確に区…

すばらしき愚民社会

ハードな論評。ただし対象は一般人ではなく欺瞞に満ちた知識人に向けられる。中盤以降は誌面での論争が中心。経緯を知らず、興味もない一見の読者にはつらい内容。論点はあるいみ万民が認めるが本音では語れない常識的右派のもの。ただ作者自身も認めている…

風に吹かれて豆腐屋ジョニー

副題は男前豆腐店ストーリー。地方の豆腐屋を本物志向で一気にメジャーに押し上げた2代目の創業記。スーパーの下請けから脱却するには、妄想に近い探求心と社員に嫌われるあくなき開発魂。今ではコマーシャリズムに乗ったようだが、本物だけが持つ味(性能…

陽気なギャングが地球を回す

個性豊かな4人組の銀行強盗団。それぞれの特技を活かして美しい犯罪を重ねる。メンバー中の紅一点が抱える過去事情で別口の強奪犯と遭遇、対決することに。全編にあふれる軽妙な会話とキレのいい小道具の配置。コミカルでスピーディーな展開で一気に読ませ…

アホな客

毎日トンデモナイお客様に悩まされている常識的な店員の皆様からの投稿の形をとっている。信じられないような客の生態。突飛ではあるがあるだおうなというレベルで読者の笑いを狙う。読む側も割り切って楽しむべき趣旨のもの。ほんのわずかな自省とともに。…

県民性の日本地図

最近はやりの県民性だが、本書は学究的にそれを形成した歴史的背景を丹念に解説する。前半で専門とする比較文化論的な総論、地形、気候の要因とともに、鎖国時代の幕藩体制が与えた影響は大きいとする。中世までは盆地ごとに文化が異なったとする説は目新し…

南大門の墨壺

重源による東大寺の鎌倉再興を題材とした歴史小説。南大門から発見された墨壺をモチーフに物語をふくらませたフィクションだが、墨壺の持ち主である東大寺の宮大工である主人公は、技術的には秀でているものの、人間関係が不得手で「木組み」より配下の「人…

町長選挙

神経科医伊良部一郎シリーズの3作目。読売の渡辺恒雄やライブドアの堀江を登場させ、そのストレスを解消するという筋立て。さすがにグレードアップしなければつらくなってきたか。破天荒ぶりは相変わらずで、内容的には十分楽しめた。出張の時間つぶしには…

明智左馬助の恋

著者の本能寺3部作の完結編にあたる。光秀の娘婿で懐刀である主人公の視点で、本能寺の変を描く。書き出しが荒木村重の謀反であることが象徴的。荒木家に嫁いだい光秀の娘を愛おしむ武骨な純愛がベースを奏でる。光秀は生真面目すぎて、秀吉との出世争いに…

政治とケータイ

著者は松下政経塾の出身。新進党/民主党の衆院議員であったが、郵政選挙での落選を機に転身。ソフトバンクの社長室長になる。米英では一般的な政財の「回転ドア」を使い自らの経験を事業展開に活かす。特に力を入れるのは携帯事業の許認可と光ファイバーの…

大手私鉄の知恵と力

激動の時代の私鉄の経営状況と事業の方向性をルポする。右肩下がりの人口動向では、ターミナル商業施設と沿線開発を核とするでかっての阪急モデルは機能しなくなり、新しいビジネスモデルを模索する必要がある。キーワードはシームレス化とブランド力の活用…

気骨の判決

終戦間際に当時の大審院で大政翼賛選挙を無効とする画期的な判決が下った。軍部の圧力に屈せず司法の独立と良心を示した裁判官が主人公。清心で暖かい人柄として描かれる。結果として戦後の完全な三権分立、検察の独立に道をつけたことになる。空襲で焼失し…

さよなら、そしてこんにちわ

日常のちょっとした出来事を題材にユーモアとペーソスを醸し出すのは作者の最も得意とする分野。短編でもその力量はいかんなく発揮されている。妻の出産を身近に控えた葬儀屋。スーパーヒーローの男優に恋心を抱く母親。クリスマスに苦悩する寺の住職と判り…