2021-01-01から1年間の記事一覧

白光

明治期の女流聖像画家山下りんの伝記小説。笠間の没落士族の娘だが、絵心にたけ東京で修行。芸大の前身である工部学校で学ぶ。その後サントペテルブルグの修道院へ留学。ニコライ聖堂で聖像画家となる。まさに波乱万丈の人生。主題は芸術と信仰の葛藤。特に…

火星に住むつもりです

著者は現役の東大生。自ら財団法人を主導し温暖化対策に取り組む。CO2を吸収する装置を発明。普及と啓蒙を図る。本書は温暖化問題とその対策としてのCO2の有効利用をやさしく解説。祖父や母親への感謝も忘れない。内容はともかくこういう若者が日本で活躍し…

リボルバー

美術史ミステリー。ゴッホの自殺に用いられた拳銃がオークションに出品された実話が着想点。本作での解明された真実はゴーギャンとの面会で銃が暴発したものとする。主題は互いの芸術性を尊敬しながらも、嫉妬と確執を繰り返した二人の関係性。もちろん空想…

わたしの美しい庭

連作構成。地方のマンションに住む複数の家族の物語。元神社の敷地で現在は屋上に移ったのは「縁切り神」という設定。LGBT、うつといった現代社会の課題とも正面から向き合う。主題は結局いかに人と向き合うかにつきる。多彩な登場人物の個性を描き分け、清…

風神雷神

琳派の始祖、俵屋宗達が主人公。信長にその才を見込まれ、天正遣欧使節に同伴してヨーロッパを訪問。ダビンチやミケランジェロの名作や同年代のカラバッジョと巡り合う。始めは反発していた使節たちもそのおおらかな人柄と芸術への想いに共感していく。もち…

蔵元の娘と楽しむ日本酒入門

タイトル通り著者は滋賀、喜多酒造の跡取り娘。蔵人として修業中であるが、飲む方も好きで研究に怠りない。日本酒の入門書として軽めのタッチで若い人特に女性向けに書かれている。お勧めは本醸造。ゆっくり味わうには良さそうだ。麹と酵母による平行複醗酵…

暁の宇品

陸軍の海上輸送を統括した宇品の船舶司令部。傍流ではあるが船舶の神と呼ばれた田尻中将とその部下たちの苦戦と活躍を描くノンフィクション。意外であるが世界に先駆け、上陸用舟艇である大発を開発し、専用輸送船と合わせて敵前上陸を可能とした。大戦中は…

AI分析でわかったトップ5%社員の習慣

謳い文句はできる社員の日常をWebカメラ等で記録し、AIで分析する。結果は人間的な魅力に富み、行動力に優れること。常にポジティブ思考であること。当たり前の結果ではある。著者はもとマイクロソフトの業務執行役員で現在は人事系コンサル。働き方改革によ…

四次元温泉日記

一風変わった温泉エッセイ。キーワードは迷路。増築を重ねた古い温泉旅館を探ね、館内を探検する。もともと神経質で風呂ギライだった作者が、次第に温泉にはまり、湯船に身をゆだねることを愉しむ心情がもうひとつの主題。中年男3人組の互いに縛られない旅も…

肉まんを新大阪で

食エッセイ。実はシリーズ化されており本編は文庫オリジナルだそうだが2018年の発行。自らの経験にもとずく多彩なネタをユーモアたっぷりに描く。ところどころで時代の流れにほろりとさせられる。読みやすいわりに時間を要したのはこちらの都合。 -京都…

兵諫

西安事件を題材にした歴史小説。タイトルは武力をもって君主を諫めること。張学良がクーデターで蒋介石を拘束し、国共合作がなったとする。これは二二六事件と同じ年の出来事であることに驚かされる。著者の立ち位置は東北軍閥に好意的。馬賊の良き伝統を称…

DXの思考法

DXについてその本質を解説する。表面上のデジタル化ではなく、社会を変革する大きな流れととらえるべき。繰り返されるキーワードはレイヤーと抽象化。食に例えた比喩も適切で理解が深まる。特に経営層を意識して書かれており、真剣に受け止めたい。著者は経…

河井寛次郎、棟方志功

随筆集。河井氏は出雲安来で育った少年時代の思い出を端麗な文章で描く。棟方氏は戦後すぐの自らの生活を軽妙に綴る。さすがに時代背景が古く完全には理解できない。文体、構成も時代を感じさせるものであった。巨匠の創作が垣間見えた部分もあったが、ごく…

グリーンジャイアント

2050年のカーボンニュートラルへ向けての、各国の状況、企業の取り組みを解説する。意外に思えたのは中国の再エネ率の高さ。ここでも日本は立ち遅れる。期待の大きいのは洋上風力発電。安全性の高い新たな原子力もベース電源としては欠かせない。日本が…

臨床の砦

舞台は長野地方都市の中規模病院。コロナの発熱外来として機能。2021年1月の奮闘を描く。時期的には第3波だが事実上の医療崩壊に近い。クラスターや院内感染と次々起こる事態に対処するのは、医療従事者の使命感と矜持。「正解ではないが最善を選ぶ」…

太平洋の巨鷲山本五十六

山本五十六提督の再評価。真珠湾の戦果と自らの戦死により偶像神格化され、未だに評価が定まらない。本書では多数の文献からその人間性はあえて無視し、用兵思想に焦点をあてて評価を試みる。基本的には好意的で特にその統率力、戦略性は傑出していたとする…

EV

自動車業界の近未来小説。主人公は経産省の若手官僚。中国の不穏な動きがきっかけ。時期を早めてEVに全面移行することで、日本のハイブリッド車を潰し、世界の経済制覇を狙う。テスラの中国進出をギリギリのタイミングで阻止。日本の部品業界に新たな光明と…

土の中

畑作日記。90日間の記録である。著者は作家にして画家であるが、躁鬱病に悩まされていた。畑を借り、野菜作りに勤しむことで、自然との一体感を体得。創作にも良い影響が顕著。野良猫親子との交流も癒しになり主題の一つである。パステル画は力強く引き込ま…

地球の未来のために僕が決断したこと

言わずと知れた大物が、地球温暖化対策を解説し、提言する。技術屋らしく原因の分析から入り、必要な要素技術とその関連、活用まで言及。経営者として経済的な数値も詳しく示す。最終的には政治の調整力が必要だが、その部分は踏み込めず理想論。長年貧困対…

こちら横浜市港湾局みなと振興課です。

連作ミステリー。振興課の若手女性職員と新人エリートが種々の問題解決にあたる。新人市長、ベテラン課長も加わり、最後は有力者を絡めた汚職事件の摘発まで。全般の軽快な展開から後半は本格的な歴史捜査。むしろ愉しめたのは前半。後半は少し設定に無理が…

月まで3キロ

短編集。表題作を含め6篇+おまけ。どれもいい。理系の出身らしく、科学的知識を背景に家族の姿を描く。厳しい現実に直面するが、ラストは希望を与えるほのぼの系。著者の作品は初めてだが、少し読み込んでみたい。新田次郎賞受賞作。 月まで三キロ(新潮文…

歴史のダイヤグラム

朝日新聞に連載された鉄道歴史エッセイ。戦前から戦後、主として国鉄時代の事件や文人たちの作品から、対象となる列車を特定する。あとがきにあるように前任である半藤氏を意識してか皇室、お召列車関係の記述が多い。自ら親子2代の乗り鉄。懐かしい写真も…

タイムズ

朝日新聞への連載時評。執筆時の動機、その後の展開を併せて構成。東京五輪を機に日本社会の実相を深くえぐる。途中からコロナによる混乱、五輪は延期といっそう低迷と分断に拍車がかかった。立ち位置は左寄りのシニカルだが、事実を見極めようとするジャー…

血族の王

松下幸之助の生涯を描く。幼少期から晩年まで、良く知られた成功へのエピソードだけでなく、人間的な葛藤や弱さにも迫る。特に晩年は経営への執着と一族への継承にこだわり晩節を汚した感もある。三洋の井植一族との決別、世田谷夫人の問題なの裏の事情にも…

20CONTACTS

作者が20人の芸術家をたずね、本質をつく質問をする構成。過去、現在を問わず、ジャンルも幅広い。自らの小説の題材となったものも含まれる。もちろん空想の産物ではあるが、芸術家たちは個性豊かで人に優しい。選び抜いたお土産がアクセントとなる。京都…

イヤならやめろ

堀場製作所の創業者にしてレジェンドの著者が社員を鼓舞する。社内誌への投稿をまとめた1冊。繰り返されるのは時間の大切さ。コスト削減に直結するだけでなく、個人の働き方改革にも寄与する。執筆は95年とだいぶ前だがまったく古さを感じない。社内向け…

テヘランからきた男

東芝の15代社長西田厚聡。東大政治学の大学院からフィアンセを追ってイランへ。現地採用ながら見る見る頭角を現し、パソコン事業を復活させる。トップとしては選択と集中を実践。半導体と原子力で市場の評価を高める。後半は不正経理疑惑、部下へのチャレ…

新世界秩序と日本の未来

対談。この二人はシリーズ化しておりすでに3作目とのこと。米中日の直近の政治状況と近未来の予想がテーマ。自由と平等の間で分裂が進むアメリカ。少子高齢化を見越して国力ピークを迎える中国。国益より権力維持に奔走する日本。指摘はなかなか手厳しい。…

美術は宗教を超えるか

対談。美術史家vs神学者の組み合わせ。西洋美術とキリスト教の関係がテーマ。宗派ごとのイコン、聖書の扱いが主なテーマとなる。カトリックではイコンを通して神を感じる。プロテスタントは聖書を唯一第一とし偶像は否定。今更ながら知らぬ事実も多く興味深…

ビジネスの未来

近未来を予想する。長期的に見れば世界経済は成長期を終え、高原状態に移行しつつある。これからは限界曲線の外側にある社会問題の解決に取り組まねばならない。人々の意識改革が必要。単純な働き方の改革ではなく、人生の目的まで踏み込んだもので、少し宗…