社会

ツナグ想い人の心得

続編。死者と生者を繋ぐ使者役である主人公。社会人になり木工デザイン会社と使者役の2足の草鞋を履く。全5編の連作。それぞれにサプライズプロットが用意されるところは流石。自らの恋話もあり引き込まれる。設定を知っているのでやはり前作ほどの衝撃は…

密航のち洗濯

戦中戦後を生きた朝鮮人の小説家。彼の残した作品と日記から、家族の運命を探るルポ。終戦直後の北からの逃避行、米軍占領下の日本への密航。最愛の妻を残して単身泳いで上陸する。日本人と再婚し東京でクリーニング店を営むが、絶えず差別と貧しさとの戦い…

池上彰の世界の見方北欧

北欧4国の国事情。厳しい環境と列強の間にはさまれて独自の政治、文化の路線を歩む。税負担は高いが、高福祉、教育重視は少ない人口で生き抜くための合理的な選択。日本が見習うべき制度も多い。中学校での授業にしては内容のレベルは高い。シリーズを遡る形…

世界を驚かせたスクラム経営

2019年のラクビーワールドカップ日本大会。その舞台裏で運営に当たった人々のノンフィクション。強豪国以外では初めて、そしてアジアでの開催ということで前例がなく準備は遅々として進まない。国際組織からの要求は高く、そして上納金の義務。唯一の収入は…

行為と妄想

碩学の履歴書。京都の商家出身。三高から京大へ。今西錦司の門下。生物学から民俗学へ。民俗学博物館の初代館長。知的生産の方法の著者としても名高い。学生時代は山岳部の猛者としてならし、アジア奥地を探検。フィールドワークを大事にする。驚かされるの…

成瀬は天下を取りに行く

滋賀、大津、膳所が舞台の青春小説。ヒロイン成瀬は型破りの天才少女。すべてに才能を発揮するが、周囲の評判は一切気にせず、独自の哲学で邁進する。同じマンションの親友が良いパートナーとなり、漫才コンビを組む。中学生から高校卒業までを描くが、恋愛…

キャラクターたちの運命論

大ヒットした少年漫画5編を取り上げ、民俗学的な検証を行う。主人公ではなく脇役に焦点をあてる。いずれも原作を完全には読んでいないので今一つ理解が進まない。逆にマンガ自体がよく構成され、それは伝承文学にも通じていることに感心する。 キャラクター…

文庫旅館で待つ本は

連作集。小さな旅館が舞台。戦前の蔵書からなる文庫があり、若女将が客の悩みに応じた一冊を推薦する。同じ匂いをかぎ分ける特殊能力のなせる技。全5編の前半は軽めだが、後半にかけて重みを増し、最終編は文庫の成り立ちまで遡る。それぞれの1冊があるが…

一日一文

古今東西の名著を365日分紹介する。範囲は哲学から詩歌まで幅広い。有名どころはほぼ網羅されているが、非常に短い引用なので、逆に主張がわかりにくい。スタンプラリーのお供で読破。 一日一文 英知のことば (岩波文庫) 岩波書店 Amazon

90歳の人間力

人生訓。短めの文章で人の生き方を簡潔に諭す。全編を通じて、失敗が人を大きくする。恐れずに挑戦することを強調。日本人は目で考える、すなわち外見や名前に惑わされ、本質を見極める力が乏しいとの指摘。既出の著作からの焼き直し。ご本人は2020年に逝去…

祖母姫ロンドンへ行く

祖母と孫の豪華なロンドン旅行記。ファーストクラスで飛び、バトラーのつく一流ホテルに滞在するというからかなりの富裕層。上流の貴婦人であった祖母は、老齢もあってマイペースというか我儘。著者は振り回されるが、夜はバットガールになり留学時の旧友に…

羊の目

任侠長編小説。夜鷹の子に生まれ、ヤクザと愛人に育てられた主人公。育ての親である親分に裏切られながらも、終生忠誠を尽くす。全篇をおおう暴力と殺人。出来すぎた人間関係は設計されたプロット。思わず引き込まれるが、少し長かったか。スタンプ収集のお…

夜明けを待つ

エッセイとルポルタージュ集。生と死、日本語教育、宗教と結構重いテーマを扱ったものが多い。淡々とした記述で、本質、真実にまっしぐらに進む作者の真骨頂。本人は希少がんを患い、余命短いとのこと。好きなノンフィクション作家。惜しまれる。 -ダブルリ…

もしもしアッコちゃん

自伝エッセイ。九州の電電公社一家に生まれ、子供のころは転校を繰り返す。両親とも兄弟が多く。親戚にも恵まれる。宮崎西高校から、金沢美大へ。漫画家への夢はもつもののガツガツはせず、応募第一作が採用される幸運。才能豊かなのだろう。傍らにはつねに…

老いてこそユーモア

ユーモアに関するエッセイ。実例を示しながら、古今東西の笑いを考察する。バックにあるのは圧倒的な教養。ネタの対象範囲は広いが、エスプリに思わずにんまりさせられる。繋ぎの一冊としては十分な内容。 老いてこそユーモア (幻冬舎新書 あ 17-1) 作者:阿…

失敗する自由が超越を生む

量子コンピューターの第一人者である東大の古澤教授。その大胆な生き方を紹介する。研究は趣味で本職はウィンドサーフィンと豪語。学生には研究生活をゲームのように愉しめと導く。人生の転機にはかならず幸運が巡りくるがそれは実力がなせるわざだろう。組…

池上彰の世界の見方フランス

独自の政治、文化を誇るフランス。その内実をわかりやすく解説する。独特の政教分離、植民地からの移民、教育システムとあまり知られていないことが多く興味深い。高校生への事業形式であるが、質疑応答もレベルが高い。シリーズ展開に期待。 -EU本部をブ…

プアジャパン

時評。急激な円安もあり国際的な地位を下げる日本。インバウンドの増加は単純に喜べる現象ではない。政府の補助金政策と円安誘導でイノベーションを怠ったのが最大の要因。打開策はデジタル人材の育成と確保。企業ごとの固定的な人事政策を打破し、流動性を…

問題解決のための名画解説

著書は米の美術史家。名画を鑑賞することで、ものの見方には様々な観点が存在することをセミナーで角界に伝えている。特に警察や医療関係には公表とのこと。写真で美術作品の実例を示し主張を繰り返す。興味を引かれる部分とそうでない部分の山谷はあるもの…

凡人が天才に勝つ方法

歌手そしてプロデューサーとしられる著者の人生を切り拓く手法。自らを凡人と位置づけ、たゆまぬ努力と工夫で現在の地位を確保した。内容的には極めて常識的。好きな分野をみつけ、ともかく数多く作品を生み出す。一定の確率でヒットは生まれ、自らは上達す…

屋根裏プラハ

写真家によるエッセイ。プラハの街に魅せられ、アトリエを持つ。共産党時代からの街の変遷をレンズを通して見てきたことになる。盟友である現地のカメラマンとの交流。尊敬する先人へのオマージュも。内容の濃い硬質な文章で読破に時間を要した。沢木氏の推…

蔡英文自伝

出生から総統就任までの自伝。専攻は法学で米欧へ留学。学者から官僚さらに政治へ転身。自らの分析では内向的とのことだが、常に冷静で長期的なビジョンを見据えて行動する。強い意志と使命感でリーダーシップを発揮する。周囲からの信頼は自ずと巻き起こる…

殺人者たちの午後

イギリスのノンフィクション。殺人犯に著者がインタビューを行い、殺人の実際とその後の収監、思うところを赤裸々にする。イギリスでは死刑は廃止、殺人罪は終身刑となるが、刑期は短縮され厳しい監視のもとに社会復帰が図られる。10例が示されるが、恵ま…

少年空海アインシュタイン時空を超える

科学系SF。空海と観音菩薩が、博士(ホーキンスがモデル)の導きで時空を旅し、物理学の歴史をたどる。それぞれエポックメーキングな発見の瞬間に立ち会う。地球上のことはニュートン力学で証明できるが、宇宙のことは相対性理論が必要。毎回のことだが、後…

おあとがよろしいようで

大学の落研が舞台。新入生の主人公はコミ障で孤独な学生生活を覚悟していた。新歓で誘われた落研に入部。仲間に恵まれ一気に人生が展開していく。特に部長は自分に似た性格の新入生をほっておけず、自らの過去をさらして導く。よくある青春感動モノであるが…

語前語後

エッセイ集。数学系の雑誌への連載。Volemeは毎回違うようだ。世相を斬り、芸術を語る。ユーモアも忘れない。著者の主張は極めて常識的で、ともすれば行き過ぎてしまう世間にブレーキをかけるスタンス。納得感はある。巻末は数学者森毅氏との対談。いずれも…

森保一の決める技法

日本代表監督として多くの実績を残す森保氏のリーダーシップの源泉を探る。選手としてはエリートでなく、オフトに見出された。視野の広さと献身的な守備でボランチをこなす。選手としてドーハの悲劇を経験。その指導力のベースは人間力。誰にでも誠心誠意向…

文字を超える

夫婦でジャストシステムを起業。夫人がプログラム、著者が営業と経営を担当。ワープロソフト一太郎で一世を風靡する。その後マイクロソフトのOS抱き合わせ戦略に押され、経営は苦しくなり、現在ではキーエンス参加。夫婦で新たにメタモジ社を起業、IPADベー…

花嫁を探しに、世界一周の旅に出た 

著者はTV番組制作者。離婚を期にバックパッカーとして世界放浪の旅に出る。2部構成になっており、前半はアジア各地で知り合った女性との恋愛模様をwebに連載。後半は旅にはまる自らを忠実に描く。アフリカを縦断し、危険度の高いソマリアまで。結局4年弱の長…

化け込み婦人記者奮闘記

明治から戦前にかけて、婦人記者の潜入取材を描く。女性の地位が低く、また記者の立場も決して高くない時代。部数獲得のために社会の下層実相を描く。読者は興味本位であり、あまり本質に迫るルポにはならない。若い女性にはどこでも芸者やその筋への勧誘が…