2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

線は僕を描く

水墨画の世界を描くフィクション。主人公は両親を事故で亡くし、失意のうちにあったが、バイト先で巨匠に見出され、内弟子になる。技巧では無く、芸術の本質に迫ることが主題。自然体で対象の持つ美を極める。水墨画は唯一直しの効かない絵画。小説としては…

外国人依存ニッポン

急増する日本在住の外国人。公開データからその実像を探る。農村や漁業では欠くことの出来ない存在。引き留めのために研修生の待遇は大きく改善されている。問題は教育と老齢化。一部解決策は示されるものの十分ではない。労働力ではなく人間として迎える姿…

夜行

不条理ミステリー。6年前に起きた鞍馬での失踪事件。当時のサークル仲間が集まり、それぞれの奇異な経験談を語る。共通するのは「夜行」という名の銅版画。異世界への入り口になっている。最後は予想に反したどんでん返し。表裏完全な二重世界が現れる。一…

大泉エッセイ

著者の若い頃のエッセイ集。地元北海道の雑誌に連載。学生の演劇部から劇団さらにマルチタレントへと成長の軌跡を描く。若いころは勢いで書いている部分もあるが、確かな文才は感じる。よくネタにされる祖父をはじめ、ユニークな家庭だったようだ。滲み出る…

新説坂本龍馬

タイトル通り、一次資料を再研究することで、龍馬の実像に迫る。司馬史観により英雄化されたと作者はするが、結論的にはあまり大きな差は感じられない。人物の大きさやネットワーク構築力は高評価。目新しいのは薩摩藩の庇護の大きさ、近藤長次郎の高評価と…

国家の衰退からいかに脱するか

前半はアベノミクスとトランプに代表される自国第一主義、ポピュリズムを徹底批判。終章でその打開策を提案。持論である道州制、個人資産の活用、教育改革を強調。AI導入による加速を図る。平成維新を唱えて30年。ブレはないが、実現していないのも事実。…

幸せになる百通りの方法

短編集。原発やオレオレ詐欺など時事ネタを織り込みながら、ユーモアとペーソスあふれる作品が並ぶ。ベースにあるのはほのぼのとした家族愛、人間愛でほっとさせられる読後感。得意な分野であろうが、安定感は抜群。 幸せになる百通りの方法 (文春文庫) 作者…

私はいったい、何と闘っているのか

主人公は地方スーパーの中堅社員。好人物なのだが妄想癖に近い思い入れで、結果がついてこない。中盤から家族の物語を絡めたところが秀逸。夫人と子供たちには立派な司令塔。考えたら他愛無い内容。お笑い芸人出身の著者の作品を読んでみたかったというとこ…

売上を減らそう

夫婦で京都西院でステーキ丼店を経営。一日100食限定。目的は働き方改革。様々な事情を抱える従業員を定時に返す。拡大路線はとらずぎりぎりの経営。地震や水害の際はさらに50食まで売り上げを落とす。チェーン展開でこの動きが拡大するか注目。斬新な…

超訳日米戦争

戦前の空想小説を現代語訳し、さらに著者独自の解題を付ける。当時としては荒唐無稽の小説だが、世界情勢を冷静に俯瞰し、メキシコの参戦により日米痛み分けの結末になっている。現代に置き換えると情報戦での出遅れと反知性主義の蔓延を懸念。日本としては…

インドが変える世界地図

急速に変化、発展をとげるインドの政治、経済、社会をモディ首相を追いかけることで描き出す。グジャラート州での実績と巧みなキーワードの創出で、選挙で大勝。斬新な改革を断行する。複雑な民主主義、宗教問題、近隣諸国との紛争と課題は山積みだが、3Gの…

小さいおうち

昭和初期。東京近郊の中流階級に奉公した女中さんが主人公。美しい奥様と小児麻痺の長男に献身的に尽くすが、微妙な関係が秘される。戦争の時代で本人は故郷に返されるが、夫婦は大空襲で命を落とす。彼女の記録がやがて謎を明かすが、真の答えは読者の想像…