暁の宇品

陸軍の海上輸送を統括した宇品の船舶司令部。傍流ではあるが船舶の神と呼ばれた田尻中将とその部下たちの苦戦と活躍を描くノンフィクション。意外であるが世界に先駆け、上陸用舟艇である大発を開発し、専用輸送船と合わせて敵前上陸を可能とした。大戦中は無防備な輸送船は次々と狙われ、軍需、民需とも立ち行かなくなる。これは戦前の統計解析で明らかな話。何とかなると始めた戦争。犠牲となるのは常に最前線の船員たちである。陸軍では犬や鳩以下の扱い。待遇改善の声は届かない。最後は原爆。司令官の独断で市民の救助にあたる。この部分が唯一の救い。感動の大作。力量ある書き手である。