危機の宰相

文芸春秋に77年に掲載されたノンフィクションが27年の歳月を経て単行本として世に出た。色あせない見事な作品である。60年安保の混乱から「所得倍増」をスローガンに日本を高度成長に導いた池田勇人。彼を支えたブレーンである下村治と宏池会の事務局長として政策実現に陰から貢献した田村敏夫。3人はいずれも大蔵省では赤切符組と呼ばれたルーサーだった。エリート経済官僚のイメージの強い池田だが、大病を患い妻を亡くし苦労したことが信仰を生み、その情にあふれた人柄と誠意が自ずから人脈を形成することになる。高度経済成長は安定路線を指向する官僚、自民党の中でも受けが悪く、3人のタッグがあって初めて実現した。続く佐藤、田中の政権も池田のグランドプランの補足、改訂版に過ぎないとする。成功キーは民間の設備投資であり、技術を開発し欧米に追いつくことで驚異の成長率を達成した。下村は欧米に追いついた後は一転してゼロ成長論者となる。冷徹で卓抜した先見性に感服。1600

  • 安保問題の陰で政権の大きな問題は米からの自由化要求への黒船対策だった。
  • 反安保のうねりは、方向性の見えない日本国民のいらだちであり、「所得倍増」は明確な目標となった。
  • 民主主義の基礎は政治的優位者の慣用である。「寛容と忍耐」=池田の政治姿勢
  • 下村は終戦の日に療養先の山形から上京していた。その真意を問われ「死ぬなら職場で死にたいと思った」。このインタビューで作品を締めくくる。

危機の宰相 (文春文庫)

危機の宰相 (文春文庫)