2023-01-01から1年間の記事一覧

いつか王子駅で

抒情的な純文学。王子、尾久、荒川沿いが舞台。作者の分身である私が日常の中で文学や競馬などを回顧しながら物語は進む。馴染みのある風景が描かれて親しみが湧く。文体は古風であるが、慣れてくると読むづらくは無い。2001年の作品だが、あまり変わってい…

海の見える無人駅

最初に定義は、駅のホームから海が望め、かつ無人駅であること。当然地方のローカル線が主となり、廃線、廃駅の危機が迫るケースが多い。駅からの眺望や設備だけでは、ネタが足らず、周辺を巡ることになる。得意とするのは無人島の探訪。さらに文学や戦跡、…

この夏の星を見る

コロナ禍の学校生活。多くの行事が中止となり、部活も制限される。感染の拡大により、家業や家庭への影響も出る。中高の天文学部がひょんなことから繋がりそれぞれ自作の望遠鏡を製作、スターキャッチのコンテストを開催。各校ごとのドラマが展開される。巧…

天才読書

マスク、ベゾス、ゲイツと言わずも知れた起業家にして成功モデル。彼らは稀代の読書家として知られる。それぞれが推薦する古今の名著を紹介。そのエッセンスを要約する。幅広いジャンルから選ばれているが、SF好き、歴史好きのところが共通点か。読んでみた…

夢と金

自己実現のためには資金が必要。現代社会に即して手法を伝授する。モノがあり余る時代、いかに付加価値をつけるか、「機能」でなく「意味」を売る。いわゆるファン経済を分かり易く解説する。行きつくところはNFTの活用。あえての上から目線は気になるが若者…

モデルナ

コロナワクチンの開発、供給で一気に名を馳せたモデルナ社。数年前は弱小のバイオベンチャーであった。mRNAの開発で新規医薬品の開発を目指していたが、実績がなくその将来性には疑問符がつく。株価はIPO価格より下振れ。コロナ対応でウィルス開発にリソー…

なぜ豊岡は世界に注目されるのか

著者は兵庫県議から豊岡市長へ。市政を20年間担う。人口減に悩む地方都市を「小さな世界都市」として再生。大きな成果を上げる。施策の柱は4本。①コウノトリも住む町。無農薬農業への転換。②城崎を中心にした観光事業。➂演劇を中心にした文化都市。④ジェ…

フィリピンパブ嬢の経済学

著者は大学院生時代に、フィリピン出身のパブ嬢と巡り合い結婚。本編は続編で出産、子育てを中心に描く。ほとんど日本語がわからず、何事にも逡巡する妻。周囲のサポートもあり、逞しい母親に成長していく。そのうらで不法入国者たちの厳しい現実がレポート…

それからの帝国

著者のモスクワ留学時代の親友であるロジア人エリートの数奇な運命をたどるノンフィクション。学生時代は反体制運動に参加、ラトビアに逃れ独立運動をサポートするが、反政府主義者として、国外追放となる。現在はプーチンのブレーンとしてウクライナ侵攻を…

失踪願望

コロナ下の日記と闘病記等の短編で構成。冒険作家として名を馳せた著者も80歳前。わりと初期に罹患し生死の境をさまよう。ネットワークは多彩で種々の遊びと酒の日々。終活は常に意識している。日頃の生活の中で夫人との固い愛情が微笑ましい。文章はキレ…

老後の資金がありません

中年夫婦が主人公。娘の結婚と親の葬儀で乏しい資産を使い果たした上に、二人ともリストラの憂き目にあう。姑を老人ホームから引き取るが、この母親が傑物で、積極的に年金詐欺の片棒をかつぐ。前半の暗い展開から陽転。最後は光明が見える。金融ものエンタ…

誰も知らないジブリアニメの世界

著者による宮崎アニメの解析。子供向けファンタジーの前半、ファミリー志向となった中盤、魔女の宅急便から興業的には成功する。後半は私小説的な要素が強まり、解釈が難しくなる。基本的に宮崎ワールドには好意的。一般に知られていない裏話も満載で愉しく…

パナソニック再生

新生パナソニックに関する日経の連載記事。事業会社制を導入し、独立採算による経営のスピード化を図る。キーとなるのはブルーワンダーと車載電池の大型投資。環境対応も大きな柱。指標としては営業キャッシュフローを重視する。期待は大きいがここまで実績…

政宗の遺言

伊達政宗の最期を新米小姓の視点で描く歴史ミステリー。江戸に上がり、人生最後の仕上げを進める戦国の英雄と、その半生を語り部が伝えていく構成。謀略に優れ版図を広げるが、秀吉や家康には常に謀反を疑われ、機知で乗り切ってきた。最後にどんでん返しも…

岡本太郎の見た日本

思想家でもあった岡本太郎の一面をその著作からひも解く。キーとなるのは戦後に書かれた三部作。パリ留学、中国への出征を経て、日本各地を訪ね民俗学的なフィールドワークの産物。縄文、東北、沖縄、韓国と原始宗教と結びつく日本文化のルーツを探る。東北…

春に散る

ボクシング小説。かってとあるジムの四天王と呼ばれたボクサーが、老年になり再集合。「チャンプの家」と名付けたシェアハウスで集合生活をしながら、有望な若手ボクサーを育てる。それぞれの必殺パンチを伝授し、最後は夢の世界チャンピオンを獲得する。引…

土を育てる

著者はアメリカの農業経営者。リジェネラティブ農法を実践し大きな成果を上げる。不耕起、無農薬、無肥料。要は生態系の力を活用し、これまでの工業化された農業とは一線を画す。学界とも協力し、データに基づいた科学的なアプローチである。光合成された炭…

のっけから失礼します。

エッセイ集。女性ファッション雑誌への連載で巻頭に収録されたとのこと。自らの私生活ネタが中心であり、中年の女流作家の実情をユーモアたっぷりに記す。多分にデフォルメされている部分もあるだろう。家族も個性がたちユニークで笑わせてくれる。自身はE…

ブックオフ大学ぶらぶら大学

新古書店の巨大チェーンとなったブックオフマニアたち自身による投稿。独特の値決めシステムで思わぬ掘り出し物が手に入り、それを狙うコレクターやせどりを商売にする人々など、多くの人生を巻き込んでいく。一時の低迷を経て、現在はずいぶんと経営スタイ…

2035年の世界地図

世界の知性と呼ばれる4人が、コロナパンデミック、ウクライナ侵攻で揺れ動く世界を展望する。副題にあるように民主主義と資本主義の未来。総じて楽観的で、一時的な後退はあるにせよ、終結後はグローバル化が進展すると予測。西欧的な見方がベースとなるが…

チャットGPTvs人類

何かと話題のチャットGPT,、生成AIに関するルポ。多数の記事やインタビューからの引用が多い。無敵の技術革新のように思われがちだが、未だ発展段階で功罪も多い。AI自身は判断機能を有しておらず、フェークを捏造、再生産する「幻覚」も例が多い。いずれに…

日本の進む道

対談。政治経済から教育、日本社会の特性まで幅広く議論。藻谷氏が問題提議をし、年長の養老氏が答える形で進む。二人とも「みんなで考える」=何も決まらない日本社会には辟易しており、2038年に予想される東南海地震での大変革を待つという皮肉な結論。日…

笑って人類

近未来SF大作。世界の大国とテロ組織の平和会議当日に、テロ組織の代表が自爆テロを敢行。残されたうら若き女性補佐官と日本の能無し首相があきらめず平和条約の締結に挑む。終盤にかけ、過去の謀略や経緯さらにはどんでん返しが明らかになってくる。未来の…

ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか

膠着状態となったウクライナ戦争の帰結をその原因分析から紐解く。この戦争は旧ソ連圏の再生を目指すロシアと西欧側への参加を目指すウクライナの互いのアイデンティティを賭けた闘いであり、妥協の余地は少ない。ロシアが開戦に踏み切った理由には、資源高…

必ずできる。もっとできる。

駒澤大学陸上部を率いる大八木監督の自伝。平成には箱根駅伝で無敵を誇ったが、その後苦しい時代が続く。自らの指導スタイルを見つめ直し一新。これまでのスパルタ式から選手との対話を重視する姿勢に。根本にはよく観察し、個性や体調まで把握し、指導して…

おしょりん

福井県鯖江眼鏡産業勃興期が題材。寒村の庄屋兄弟が明治期に起業する。羽二重で一度手痛い失敗をしているだけに、兄は慎重。営業センスに長ける弟は将来性を信じ強引に道筋をつける。大阪から職人を招き、徒弟制度で技術を移植する。親方毎に班を分け競わせ…

タイタン

近未来SF。人工知能タイタンが全てをコントロールする世界。人類は仕事から解放されて優雅な生活を送っている。ヒロインの心理学者に依頼されたのは、12個あるAI拠点の一つのカウンセリング。機能低下の原因を探る。時間をかけた会話と、最新鋭AIとの…

かがみの孤城

ファンタジーSF。ひどいいじめに会い登校できなくなった中1の主人公。鏡を通して不思議な城に招かれる。同様の状況の仲間が男女計7人。願いがかなう鍵を探すなかで、それぞれの事情が明らかにされ、仲間意識が醸成される。同じ中学に属することが明らかと…

京都不案内

作家である著者による京都エッセイ。東京在住だが、時折京都に滞在し、北白川あたりに定宿を持ち、街歩きと文人たちとのネットワークを楽しむ。京大の先生方や卒業生がつぎつぎ登場する。予測していたよりは高尚な世界。それはそれで楽しいが、時間の流れ方…

カメラを止めて書きます

著者は在日朝鮮2世。映画監督として家族の歴史をドキュメンタリー作品に残す。父は朝鮮総連の幹部で自らの息子3人を帰国事業で北朝鮮に返す。母も気丈な人で子や孫に物資を送り続ける。これにより在北の一族はある意味豊かな生活を送れているようだ。映像作…