2021-01-01から1年間の記事一覧

ゴッホの耳

有名なアルルでの自傷事件。耳をそぎ落とした画家の真実に迫る。膨大な公文書を解き明かし、当時の住民のデータベースを作成するという地道な作業。発見は医師のスケッチから切り落とされたのは耳全体であったこと。送ったのは娼婦ではなく貧しい掃除婦だっ…

株式市場本当の話

長年株式市場を取材した日経記者が、現在の市場を取り巻く状況、問題点、将来展望を解説する。必ずしも楽観的でなく辛口な論調。将来の人口減少で日本市場は自然とゆるやかな下落が予想される。東証の制度変更は大きな契機になる可能性が高く注目すべき。推…

異形のものたち

シリーズ最新刊。テーマを分け絵画に描かれた異形を紹介する。キリスト教絡みがほとんどなのは歴史上当然。ユーモアあふれる文章はおてのもの。カラー図版も豊富で読みやすい。まだまだ知らない画家を紹介されて刺激になる。 異形のものたち: 絵画のなかの「…

読書は格闘技

新しい形の書評集。ビジネス書から児童文学まで、代表的であり論争の対象となる2冊を取り上げ、内容を比較検討し紹介する。本書の目的は読み手の活性を高め、格闘的な読書を促すことである。紹介された書籍は一部読んでいるが、気になるものもいくつか、早…

ビジネス戦略から読む美術史

西洋美術の歴史をビジネスの観点から振り返る。従来の注文製作から、市民向けの製造販売に移行したオランダ絵画。当然題材も身近なものに変わる。ルネッサンスを支えたメディテ家の事情。印象派を世に出した画商の戦略と買い手となったアメリカ富豪など興味…

令和の国防

陸海空の自衛隊OBが座談会の形で、日本の国防の問題点を憂う。最大の課題は拡大進出する中国対策。台湾進攻は現実のものになりつつあると危機感をあおる。シビリアンコントロールが前提だがより明確な国家戦略上の立ち位置が必要。現状認識の前半は刺激的だ…

東京パンデミック

自作の写真に、撮影意図や思いを綴ったエッセイを付す。主役は写真。ゴミ埋め立ての進む湾岸部の作品が多い。早朝の撮影で人は存在しない。テーマは墟。RuinはRunが語源で変わり行くことを示す。震災後の東北との比較は述べられるが、コロナやオリンピックは…

ルワンダ中央銀行総裁日記

独立間もないアフリカの最貧国ルワンダ。著者は日本銀行、IMFから派遣され中央銀行の総裁を務める。2重だった為替通貨の一本化を断行。大統領から絶対の支持を得て、財政再建だけでなく、経済振興策も提言。その後順調な発展の礎となる。宗主国頼りの植民地…

帝国の弔砲

革命前後のロシアを舞台にした長編小説。主人公は日系移民の子。両親はシベリアで厳しい開拓生活だが、一息ついたときに日露戦争が勃発。キャンプ抑留を強いられる。主人公は鉄道学校を優秀な成績で卒業するが、今度はロシア帝国軍に徴兵され、ヨーロッパ戦…

いのちの停車場

大学病院の救急センターの助教授であった女医が、退職し故郷金沢へ戻る。小規模な在宅医療の医師として終末医療にあたる。様々な事情を抱えたケースが6話。周囲の助けもあり、ともに成長。最後は自らの父を看取る。老々介護、先端医療、安楽死と重いテーマ…

そしてすべては迷宮へ

エッセイ集。いろいろなメディアに掲載されたものをかき集めた印象。お手の物の名画の解説、図版も豊富。若いころや大学講師時代のちょっとしたエピソードなど軽妙な文章で綴る。後半の書評が興味深く、何冊か予約済み。全体としては軽めの印象。 そして、す…

国家の尊厳

新たな国家論。現代社会は深刻なアイデンティティの危機にあるとする。戦後の価値観であった自由と民主主義は疲弊し、本家アメリカでもその価値が揺らいでいる。Somewhereにしか住めない中間層は世界に触れている実感とスピードを重視し、トランプ支持前半の…

東京藝大で教わる西洋美術の見かた

藝大教授による美術史概説の講義録。時代を追うのではなく、名作に焦点をあてその構図と時代背景を解説。印象派は一切登場せず、ドイツやイギリスのあまり知られていない部分を紹介。強調されるのは時代や距離を超えての共通性。画家は名作を模倣し、参考と…

熱源

サハリンアイヌの物語。日露のハザマで揺れ動く運命。文明からは未開人とさげすまれるが、同化していくか自らの文化を守るかの葛藤。ロシア側にはポーランド人の文化人類学者を絡める。彼自身も妻子を残し、母国の革命に巻き込まれていく。日本側は白瀬探検…

だるまちゃんの思い出遊びの四季

絵本作家が、福井県武生での幼少期の思い出を四季ごとにつづる。時代は戦前。豊かな自然に恵まれ、動植物とのふれあい、童歌のコレクションから遊び方を類型化している。物質的には貧しいが、精神的には豊かな時代。両親との思い出や戦争の影も少し描かれる…

経理から見た日本陸軍

旧陸軍の経理システムを歴史学として研究し解説。イメージと異なり、意外ときっちりした運用がなされていた。巨大組織を回すには必要であったということだろう。また軍需産業にエキスパートを派遣し、コスト意識を徹底させ、拡大再生産を促した。細かい数字…

よそものが日本を変える

著者は長年JRグループでエキナカ等の商業施設の立ち上げを担当。地域密着による経済再生を手掛ける。特に疲弊している農業分野には「よそもの」の視点が重要。実際の融合は容易ではないが、実績を示すことでムーブメントは生まれる。画一的な商品ではなく、…

DXとは何か

学界の大御所がDXを平易に解説する。技術的なことよりコンセプトや社会にもたらすインパクトについて頁を割く。繰り返されるのは何事も絶対的な正解はなく「程度の問題」。最適な解を目指して社会の妥協と納得が必要。日本は保守的で抵抗が強く、欧米やアジ…

お寺の日本地図

47都道府県ごとに、代表的な1寺を紹介する。選定の基準は歴史的価値。日本の仏教史上重要な寺院を解説していく。例えば奈良は飛鳥寺。それぞれの歴史は様々だが、権力者に左右されまた自然災害との闘い。特に明治期の廃仏毀釈はすさまじいものがあった。…

三行で撃つ

文章塾。良い文章を書くための25のキーを伝授される。表面的なテクニックではなく、如何に物事の本質に迫れるか。突き詰めれば書き手の人間性、生き方に立ち返っていく。逆に言えば文章は表現の一つにすぎず、すべての人間に問われる根源的な内容でもある…

幻想列車

メルヘン小説。上野駅18番線を発射する旧型列車は、乗客の記憶を無くす効果を持つ。結果を先にシュミレーションし本人に見せるサービス付き。4編に描かれたケース。徐々にテーマは重くなる。いずれも現実に向き直る覚悟を決め、記憶操作は最小限にとどめ…

プロイセン王家12の物語

ドイツプロイセン王家の盛衰を簡潔に紐解く。地方の豪族からプロセインを統一、さらにドイツ皇帝まで。各代に特徴はあるが名前がだぶるのであだ名で呼ばれる。歴史上評価が高いのは3代フリードリヒ2世(大王)と8代同三世(われらがフリッツ、老王)、後…

東京藝大仏さま研究室

藝大実在の講座をモデルにしたフィクション。4人の修士2年生が、修論として仏像の模刻に挑む。難関の藝大への挑戦。創作の世界から修復の世界への葛藤。恋愛と将来の進路など織り込みながら、芸術の意味、仏教信仰との関係など深いテーマを抉る。コミカル…

大前研一の世界の潮流2020-21

シリーズ版。トランプとコロナによって破壊された世界。その影響はしばらく続くと予測。注目すべきはブレクジット後のイギリスの動向。スコットランドの独立が焦点。自動車産業はEV化で今後大幅な削減が見込まれる。日本は低迷が続くが、強国中国にぶら下が…

脳から見るミュージアム

対談。脳科学者と博物学者。どちらかと言えば博物館への誘い、啓蒙書。博物館の歴史、バックヤードの事情なども紹介。博物館の価値は表の展示ではなく、裏の所蔵品、公式には博物館資料にある。欧米中心の価値観には疑問も呈する。人類にとってかけがえにな…

生きるとか死ぬとか父親とか

連作エッセイ。70代後半の父親と40代の娘(作者)。離れて暮らすが、亡くなった母の墓参等で時折一緒になる。若い頃からの父親の人生を掘り起こす形。事業に失敗、豪邸を手放す結果になるが、特に女性には魅力的な人のようで、人物像自体が面白い。娘と…

新L型経済

対談の形を取るが、田原氏は聞き手。富山氏の日本の経済対策に関する主張。G(グローバル)型企業は伸びしろが少なく、これからはL(ローカル)型に主軸を置くべし。具体的には地方の中核都市に東京から人口を移動させ、雇用と需要を創出する。生産性の低い…

ルポ川崎

川崎の現代若者像を探るルポ。特に駅の海側は歓楽街であり暴力が支配する。多国籍であり、へイトスピーチに悩まされる。若者たちは男女ともに年少のころから不良となり、薬物や犯罪に手を染める。行きつく先は暴力団か水商売がお決まりのコース。ラップが流…

それでも陽は昇る

主人公は神戸の小学校教師。東北への応援派遣を終え、地元に戻る。二つの震災を如何に後世に伝えるかが主題。世代は変わりかっての教え子たちがそれぞれの立場で奮闘する。形ばかりの復興ではなく、人々の想いをどう吸い上げ実現していくか。できなかったこ…

累々

恋愛小説の連作。ヒロインの美大生の恋愛遍歴、同時進行で複数の男性との交際が描かれる。根底の心情は上手く理解できない。これは世代差によるものか。レベルは高くプロの作家に遜色ないが、女性側の書き分けがやや不十分。どうしても女優としての作者のイ…