書評

屋根裏プラハ

写真家によるエッセイ。プラハの街に魅せられ、アトリエを持つ。共産党時代からの街の変遷をレンズを通して見てきたことになる。盟友である現地のカメラマンとの交流。尊敬する先人へのオマージュも。内容の濃い硬質な文章で読破に時間を要した。沢木氏の推…

蔡英文自伝

出生から総統就任までの自伝。専攻は法学で米欧へ留学。学者から官僚さらに政治へ転身。自らの分析では内向的とのことだが、常に冷静で長期的なビジョンを見据えて行動する。強い意志と使命感でリーダーシップを発揮する。周囲からの信頼は自ずと巻き起こる…

殺人者たちの午後

イギリスのノンフィクション。殺人犯に著者がインタビューを行い、殺人の実際とその後の収監、思うところを赤裸々にする。イギリスでは死刑は廃止、殺人罪は終身刑となるが、刑期は短縮され厳しい監視のもとに社会復帰が図られる。10例が示されるが、恵ま…

少年空海アインシュタイン時空を超える

科学系SF。空海と観音菩薩が、博士(ホーキンスがモデル)の導きで時空を旅し、物理学の歴史をたどる。それぞれエポックメーキングな発見の瞬間に立ち会う。地球上のことはニュートン力学で証明できるが、宇宙のことは相対性理論が必要。毎回のことだが、後…

おあとがよろしいようで

大学の落研が舞台。新入生の主人公はコミ障で孤独な学生生活を覚悟していた。新歓で誘われた落研に入部。仲間に恵まれ一気に人生が展開していく。特に部長は自分に似た性格の新入生をほっておけず、自らの過去をさらして導く。よくある青春感動モノであるが…

語前語後

エッセイ集。数学系の雑誌への連載。Volemeは毎回違うようだ。世相を斬り、芸術を語る。ユーモアも忘れない。著者の主張は極めて常識的で、ともすれば行き過ぎてしまう世間にブレーキをかけるスタンス。納得感はある。巻末は数学者森毅氏との対談。いずれも…

森保一の決める技法

日本代表監督として多くの実績を残す森保氏のリーダーシップの源泉を探る。選手としてはエリートでなく、オフトに見出された。視野の広さと献身的な守備でボランチをこなす。選手としてドーハの悲劇を経験。その指導力のベースは人間力。誰にでも誠心誠意向…

文字を超える

夫婦でジャストシステムを起業。夫人がプログラム、著者が営業と経営を担当。ワープロソフト一太郎で一世を風靡する。その後マイクロソフトのOS抱き合わせ戦略に押され、経営は苦しくなり、現在ではキーエンス参加。夫婦で新たにメタモジ社を起業、IPADベー…

花嫁を探しに、世界一周の旅に出た 

著者はTV番組制作者。離婚を期にバックパッカーとして世界放浪の旅に出る。2部構成になっており、前半はアジア各地で知り合った女性との恋愛模様をwebに連載。後半は旅にはまる自らを忠実に描く。アフリカを縦断し、危険度の高いソマリアまで。結局4年弱の長…

化け込み婦人記者奮闘記

明治から戦前にかけて、婦人記者の潜入取材を描く。女性の地位が低く、また記者の立場も決して高くない時代。部数獲得のために社会の下層実相を描く。読者は興味本位であり、あまり本質に迫るルポにはならない。若い女性にはどこでも芸者やその筋への勧誘が…

目の見えない白鳥さんとアートを見にいく

全盲の白鳥さんとのアート鑑賞貴。健常者が美術をまえに見た印象を会話することで、想像を膨らますようだ。面白い体験記が続くが、テーマは意外と統一性がなく、芸術論から優勢主義や差別の問題まで幅ひろく広がる。つきつめれば求められるのは人間同士の関…

夢ノ町本通り

これまで世に出した多数のエッセイから、書物、読書に関するものを再編成。膨大な読書歴の遍歴がつづられる。さすがに時代的には古いものも多く、書評欄では図書館にはない作品が並ぶ。中盤の本を編むではみずから編集に携わった山本周五郎の作品紹介が続き…

中田敦彦の妻になってわかった自分らしい生き方

芸能人夫婦の子育て記。著者は横浜国大のミスコンからデビュー。そこで知り合った売れっ子芸人のオルラジ中田と結婚。コロナ危機を契機に家族でシンガポールへ移住する。日本での殺人的なスケジュールから解放され、異国で子育て経験することで家族の絆が深…

超創造法

生成AIの現状と活用方法を解説する。現時点では使えるのは翻訳と要約。但しプロトコルにテクニックが必要。結果にはミスも多く信頼性は低い。AI側の創造性は期待できない。技術的な改良が進めば、大きく社会を変えることは間違いない。まずは教育システム。…

ザイム真理教

大蔵省、財務省を痛烈に批判する。財政均衡を正とし、緊縮財政と増税で日本経済に深刻なダメージを与えた。多くの政治家を洗脳し信者とする。最たるものは岸田首相。唯一反攻したのが安倍首相だが、森友問題を仕組まれしぶしぶ消費税の引き上げを承認した。…

21匹のネコがざっくり教えるアート史

タイトル通りの内容。古代エジプトから現代美術まで、猫たちが代表作のモデルになり、その特徴を語る。まずは予想通りの内容だが、著者は英国人アーチストなので、近現代ではあまり知られていない区分けもある。まあ愉しめました。 21匹のネコがさっくり教え…

覚悟

著者は鹿児島のスーパーオーナー家に嫁入り。現在副社長を務める。無謀とされたMBOを実行。負債を返済し優良企業に育て上げる。本書は彼女の経営手法、生き様を簡潔にまとめたもの。基本は極めてポジティブ。即断即決で走りながら考える。悩んだ時の原点は、…

展望塔のラプンツェル

舞台はおそらく川崎市南部。多民族が暮らし貧しい地区。不良やヤクザが跋扈し、様々な社会問題は日常茶飯事。主人公は児童相談所の職員として日夜搬送する。若いカップルと育児放棄された幼い子供。不妊に悩む中年主婦と3本の線が物語を織りなす。中盤で救い…

第4の革命カーボンゼロ

日経の連載記事。カーボンゼロに挑む最前線を取材。こちらの認識以上に温暖化が進行し、特に海外では危機感が高い。技術開発も進んでおり、特にペレブスカイト太陽電池と光触媒による水素発生に期待。記事部分に加えてインタビューも全掲載されているが、重…

忘れられない一冊

蔵書に関するエッセイ。82人の著名人が自らの人生に大きな影響を与えた1冊を選び、思い出を語る。私と同年代の作家らが多く、選書もやや古い。手練れの書き手が短くまとめているので読みやすい。週刊朝日の連載。文庫で2013年。 忘れられない一冊 (朝日文庫)…

信長の正体

歴史学上の信長の位置づけを論じる一冊。多角的に史実を積み上げて解析する。戦国時代を終わらせるために時代が要求して出現した変革者との結論。きわめてアカデミックな解析で興味深い。信長だけでなく古代からの日本史の流れをおさらいする。短いが幸著で…

ゴリラ裁判の日

主人公はカメルーンで育ったメスゴリラ。母親とともに研究者に手話を教えられ、人間並みの知性を有する。アメリカオハイオの動物園であやまって落ちた人間の子供を助けるために、夫ゴリラが射殺されてしまう。謝罪と賠償を求めて2度の裁判。人間の定義が争点…

シニアエコノミー

高齢化が進む日本社会をビジネスチャンスと捉え、新たな起業を促す。ポイントは巨大な金融資産。個人が死去までに使い切ることで経済を廻す。高齢者と若者をつなぐビジネスにも機会が大きい。説得力は相変わらずだが、従来の主張を繰り返しており、焼き直し…

さすらい猫ノアの伝説

児童文学のジャンル。舞台は小学校。問題のあるクラスに登場する都市伝説の黒ネコノア。高学年の難しい時期に直面する問題を見事に解決に導く。基本みな好人物で、ちょっとしたズレが増幅していく。まっすぐに向き合って解決していくのは大人の世界も同じ。…

世界を動かした名演説

タイトル通り歴史に残る名演説15編を紹介する。世界情勢を池上氏が、英語表現のレトリックをパックンが解説する。いかに聴衆を引き付け、共感を呼ぶかが最大のポイント。どれも素晴らしいが、レーガンの話術は高評価。最後の女性3人もインパクトが強い。…

その疲れは最高のツマミになる

大型トラックの女性ドライバー。高校卒業後に上京。人間関係の少ないドライバー稼業を選択する。SNSが評判となり、一気に有名になる。生き方は愚直で不器用。きつい肉体労働にも真正面から取り組むところには好感。文章はまだ稚拙で、主張は常識の範囲内で平…

心に光を

元ファーストレディの自伝第2段。前作より自己の成長、内面に踏み込んだ内容。黒人女性で長身であることが、トラウマになり、なかなか積極的になれない。そこを振り切って自分の世界を広げていく。オバマと出会い、家庭を持ってからは積極的にサポート。ホ…

人はどうして老いるのか

人の一生、特に老いのメカニズムについて解説する。基本は「遺伝子の乗り物」であることに変わりはない。遺伝子に取って次世代の繁殖力が確立した際に、効率の悪い老年はその役目を終える。著者は「遺伝子のシナリオ」と呼び、その中でいかに生きるかは個人…

もう歩けないからが始まり

陸上自衛隊の実情を、兵員目線で記述。厳しい訓練に明け暮れてはいるが、戦前のように不条理ではなく、納得しなければ動かない。考えてみると辞める選択肢もある。面白おかしく書いているが、ある意味常識的な話で、一般社会とも通じるところはある。地著者…

ロバのスーコと旅をする

イラン、トルコ、モロッコとロバを連れての徒歩旅行。お国柄は様々だが、イスラム圏は基本的に旅人には優しい。宿や食事を提供されることも。一方で国家の監視は厳しく、リレー的に見張られている。良からぬ奴らに狙われ、トラブルに会うことも多い、ロバは…