美術

愛のぬけがら

画家ムンクの生涯にわたるテキストを紹介。代表的な絵画作品をカラーで掲載。膨大な文章が残されているそうだが、神経症に悩まされていることや、新たな作風に対する世間の批評への反論が目に付く。お勉強をかねて基本英語で読んだが、これ自体が訳文。まあ…

芸術がわからなくても美術館がすごく楽しくなる本

タイトル通り美術鑑賞に関する指南書。美術館の種類からはじめ、敷居の高い初心者を優しく誘う。難しく考える必要はなく、自分の感性を大事にすること。食の好みに喩え、オープンエンドを強調。実践編ではまずはぐるっと回り全体を俯瞰、第一印象で目につい…

日本の美意識で世界初に挑む

著者は西陣織老舗の12代目。衰退産業の再生のために海外進出。従来の着物の枠にとらわれず、美術工芸品として一流ブランドに認められる。京都の伝統工業でネットワークを形成。先端技術を含めた新たなコラボで世界に価値を問う。繰り返されるのは妄想をイ…

建築でつかむ世界史図鑑

古代から現代まで遺跡、建築を見ることで世界史の流れをつかむ。図録が豊かなのは良いが、全世界を網羅することと一件一頁に凝縮しているので、各件当たりの印象はうすれる。注釈の文字が小さく読みにくいのも難点。 東大名誉教授がおしえる! 建築でつかむ世…

絵の中のモノ語り

タイトル通り、名画に描きこまれたモノを題材にしたエッセイ。全32話。雑誌掲載なので軽めの内容を短めの文章で一気に読ませる。なかなか知りえぬエピソード満載で愉しめた。口絵も大きくカラーで美しい。休日の午後に一気に読破。 絵の中のモノ語り 作者:…

常設展示室

短編集。名画をひとつキーに取り上げ、それにまつわる家族の物語を紡ぐ。作者の得意とするパターン。5編を収録。発表時期は意外と幅広い。途中でプロットが読める感じはあるが安心して楽しめた一冊。 常設展示室―Permanent Collection―(新潮文庫) 作者:原…

白光

明治期の女流聖像画家山下りんの伝記小説。笠間の没落士族の娘だが、絵心にたけ東京で修行。芸大の前身である工部学校で学ぶ。その後サントペテルブルグの修道院へ留学。ニコライ聖堂で聖像画家となる。まさに波乱万丈の人生。主題は芸術と信仰の葛藤。特に…

リボルバー

美術史ミステリー。ゴッホの自殺に用いられた拳銃がオークションに出品された実話が着想点。本作での解明された真実はゴーギャンとの面会で銃が暴発したものとする。主題は互いの芸術性を尊敬しながらも、嫉妬と確執を繰り返した二人の関係性。もちろん空想…

風神雷神

琳派の始祖、俵屋宗達が主人公。信長にその才を見込まれ、天正遣欧使節に同伴してヨーロッパを訪問。ダビンチやミケランジェロの名作や同年代のカラバッジョと巡り合う。始めは反発していた使節たちもそのおおらかな人柄と芸術への想いに共感していく。もち…

河井寛次郎、棟方志功

随筆集。河井氏は出雲安来で育った少年時代の思い出を端麗な文章で描く。棟方氏は戦後すぐの自らの生活を軽妙に綴る。さすがに時代背景が古く完全には理解できない。文体、構成も時代を感じさせるものであった。巨匠の創作が垣間見えた部分もあったが、ごく…

土の中

畑作日記。90日間の記録である。著者は作家にして画家であるが、躁鬱病に悩まされていた。畑を借り、野菜作りに勤しむことで、自然との一体感を体得。創作にも良い影響が顕著。野良猫親子との交流も癒しになり主題の一つである。パステル画は力強く引き込ま…

20CONTACTS

作者が20人の芸術家をたずね、本質をつく質問をする構成。過去、現在を問わず、ジャンルも幅広い。自らの小説の題材となったものも含まれる。もちろん空想の産物ではあるが、芸術家たちは個性豊かで人に優しい。選び抜いたお土産がアクセントとなる。京都…

美術は宗教を超えるか

対談。美術史家vs神学者の組み合わせ。西洋美術とキリスト教の関係がテーマ。宗派ごとのイコン、聖書の扱いが主なテーマとなる。カトリックではイコンを通して神を感じる。プロテスタントは聖書を唯一第一とし偶像は否定。今更ながら知らぬ事実も多く興味深…

ギフト

短編集。若い女性の視点で恋愛や家族関係を描く。基本はハッピーエンドのほのぼの系。巧みな設定と優しい文体は作者の得意とするところ。パステル画の挿画が非常に良い。特定されていないが尾枝かえさんの作品。まったりさせられた。 ギフト (ポプラ文庫 は …

ゴッホの耳

有名なアルルでの自傷事件。耳をそぎ落とした画家の真実に迫る。膨大な公文書を解き明かし、当時の住民のデータベースを作成するという地道な作業。発見は医師のスケッチから切り落とされたのは耳全体であったこと。送ったのは娼婦ではなく貧しい掃除婦だっ…

異形のものたち

シリーズ最新刊。テーマを分け絵画に描かれた異形を紹介する。キリスト教絡みがほとんどなのは歴史上当然。ユーモアあふれる文章はおてのもの。カラー図版も豊富で読みやすい。まだまだ知らない画家を紹介されて刺激になる。 異形のものたち: 絵画のなかの「…

ビジネス戦略から読む美術史

西洋美術の歴史をビジネスの観点から振り返る。従来の注文製作から、市民向けの製造販売に移行したオランダ絵画。当然題材も身近なものに変わる。ルネッサンスを支えたメディテ家の事情。印象派を世に出した画商の戦略と買い手となったアメリカ富豪など興味…

東京パンデミック

自作の写真に、撮影意図や思いを綴ったエッセイを付す。主役は写真。ゴミ埋め立ての進む湾岸部の作品が多い。早朝の撮影で人は存在しない。テーマは墟。RuinはRunが語源で変わり行くことを示す。震災後の東北との比較は述べられるが、コロナやオリンピックは…

そしてすべては迷宮へ

エッセイ集。いろいろなメディアに掲載されたものをかき集めた印象。お手の物の名画の解説、図版も豊富。若いころや大学講師時代のちょっとしたエピソードなど軽妙な文章で綴る。後半の書評が興味深く、何冊か予約済み。全体としては軽めの印象。 そして、す…

東京藝大で教わる西洋美術の見かた

藝大教授による美術史概説の講義録。時代を追うのではなく、名作に焦点をあてその構図と時代背景を解説。印象派は一切登場せず、ドイツやイギリスのあまり知られていない部分を紹介。強調されるのは時代や距離を超えての共通性。画家は名作を模倣し、参考と…

お寺の日本地図

47都道府県ごとに、代表的な1寺を紹介する。選定の基準は歴史的価値。日本の仏教史上重要な寺院を解説していく。例えば奈良は飛鳥寺。それぞれの歴史は様々だが、権力者に左右されまた自然災害との闘い。特に明治期の廃仏毀釈はすさまじいものがあった。…

東京藝大仏さま研究室

藝大実在の講座をモデルにしたフィクション。4人の修士2年生が、修論として仏像の模刻に挑む。難関の藝大への挑戦。創作の世界から修復の世界への葛藤。恋愛と将来の進路など織り込みながら、芸術の意味、仏教信仰との関係など深いテーマを抉る。コミカル…

金閣を焼かなければならぬ

著者は精神科医。サブタイトルにあるように修行僧で放火犯の林養賢と名作「金閣寺」を著した三島由紀夫の精神分析を行う。林は明らかな精神分裂症。ただし発症は事件後。三島は自らのナルシズム打破を作品に託する。正直専門的なところは難解。評価は難しい…

洋画家の美術史

明治から現代まで日本を代表する洋画家16人の作風を紹介する。それぞれに影響を与えた西洋の画家や南画を「成分表」として表すなど新しい試みで興味深い。日本文化を古今東西のコラージュと位置づけ、洋画も模倣ではなく独自の発展を遂げたとする。自らの…

共創力

掃除ロボット「ルンバ」を世に送り出した創業者コリン・アングルの伝記。子供のころから機械好き。MITでコンピューター工学を専攻。技術的に優秀なのはもちろんであるが、真価は理想を追求し、周囲を巻き込む力にある。飽くなき探求と状況に応じて柔軟に対応…

会計士と画廊主の異色の対談。美術界をビジネス的な視点で分析していく。日本の美術館の収蔵品は時価評価がなされず、フローもストックも実態は不明のまま。改善の余地は大きい。最終的な論点は美意識に及ぶ。軽めの記述の中で美術史上の蘊蓄も随所で語られ…

大仏師運慶

運慶の美術史的価値を再評価する一冊。鎌倉時代の仏像は工房の作品であり、一般のイメージと異なり、プロデユーサーとしてとらえる。朝廷と幕府の二十構造の中で、両方から受注を受け、慶派を率い発展させたところも高評価。美術としては現代西洋美術の価値…

リーチ先生

英国人でありながら、日本の陶芸に魅入られ、その創作と芸術性の発展に貢献したバーナード.リーチ。その助手として彼をささえる青年が主人公。白樺派との交遊。自分の窯での製作。さらに英国へ渡り工房の設立、彼の目を通してリーチの生涯を描く。陶器を芸術…

美術展の不都合な真実

メジャーな美術展が満員でゆっくり鑑賞できない日本。その内幕を暴露、批判する。原因はマスコミ主導。金に物を言わせて海外美術館から所蔵品をパッケージで借り受ける。これは個人展より容易。大々的な広告で集客する。海外側にとっては休館中のサイドビジ…

美意識の値段

著者はクリスティーズの日本法人代表。数々の美術品取引を手掛ける。父親の影響もあり、若い頃から日本美術の知識を詰め込まれる。ビジネスではなく美術品を継承していくことの重要性を強調。オークションの裏側を描く前半が特に興味深い。後半の日本美術の…