美術

美しき愚かものたちのタブロー

松方コレクションを題材にしたフィクション。幸次郎による収集、戦中の疎開、戦後の返還交渉と数奇な運命をたどった稀代の名画たち。日本の美術の発展を願い、死命をかけて守り抜いた人々を描く。会話が多く引き込まれるが、少し欲張りすぎで焦点がぼけた感…

アノニム

ジャクソン・ポロックの未発見の大作をモチーフにする。香港でのオークションに出品され、盗賊団と義賊団のコンゲーム。現地の高校生カップルも交えてジェットコースター小説になっている。ポロックはピカソに憧れ、それを乗り越えるために新たな一歩を踏み…

あの絵のまえで

短編集。名画がキーになる家族や男女の物語。決して豊かでない人々が、それぞれに絆を確認し、幸せを見つける。主題としてはアートにはその力があるということ。全6作。巧みである。直島には行かなくては。 〈あの絵〉のまえで 作者:原田 マハ 発売日: 2020…

国立西洋美術館名画の見かた

現役のキュレーターが所蔵品を中心に名画鑑賞法を伝授。ジャンルごとに解説するのは意外と目新しい。物語画をトップとするヒエラルキーは時代とともに解消していく。カラーの図録も豊富で極めて分かりやすい内容。後半は楽屋ネタのギャラリートークだがここ…

絵を見る技術

プロの名画鑑賞法を伝授する。フォーカルポイント、経路、バランス、色、構造の5点。当然ながら画家たちは十分計算して、名画を製作している。観る側としては、知識として知っていれば、見方を広げることができるだろう。カラー図版を多用し、しかも同じ作…

羊と鋼の森

ピアノ調教師を題材とした小説。北海道の田舎育ちの青年が、高校時代に出会った天才的調律師に憧れ、その道を目指す。地元の小さな楽器店に就職し腕を磨く。それぞれ癖のある先輩たちと、様々な客先。双子の女子高校生が重要な役割を担う。ピアノは演奏者だ…

原田マハの印象派物語

7人の画家を取り上げ、そのショートストーリーで生涯を描く。これまでの著者の作品の中からエピソードを取り上げる。生活や恋愛感情は一応フィクション。巻末にフランス紀行と対談を掲載。自身はモダンアート側から印象派に入ったとのこと。既知の部分が多…

東京駅の扉

著者は東京駅フォトグラファー。秘蔵の写真とその解説で東京駅100年の歴史を語る。再建なり100周年を迎えた駅は、いつまでも改造が続き、日々進化する。本書は建築家辰野金吾没後100年へのオマージュでもある。ステーションホテルにはいつかもう一…

魔境のオーケストラ入門

著者はN響ヴァイオリン奏者。東京芸大を首席卒業。自らの生い立ちと音楽観、オーケストラの内幕をユーモアを交えて描く。一般家庭に育つが熱心な母親に押されてヴァイオリンを学ぶ。厳しい師匠に食らいつくことで一気に開花。現在は子供たちの教育にも力を注…

世界はデザインでできてる

アートディレクターの著者が、自らのデザイン手法と業界情報を詳らかにする。得意分野はロゴや商品デザインなど社会的なもの。当たり前であるが創作のたみには、情報のインプットが重要。この世界を目指す人にはいい入門書であろう。参考にしたい。 世界はデ…

風神雷神

琳派の祖、俵屋宗達の伝記小説。京の扇屋の跡取りとして本家から養子として迎えられる。外見は抜けボンのキャラだが、画才は素晴らしい。その実力を見抜いたのは本阿弥光悦であり、烏丸光広。年代ごとに代表的な作品が物語に登場する。風神雷神屏風はその遺…

線は僕を描く

水墨画の世界を描くフィクション。主人公は両親を事故で亡くし、失意のうちにあったが、バイト先で巨匠に見出され、内弟子になる。技巧では無く、芸術の本質に迫ることが主題。自然体で対象の持つ美を極める。水墨画は唯一直しの効かない絵画。小説としては…

ボッティチェリの裏庭

名画ミステリー。幻のビーナス図を巡り、創作時、ナチスによる強奪、現代での発見と時空を超えて物語は進行する。最後に2重のどんでん返しがあり楽しめる。重厚なプロットではあるが、若干盛り込み過ぎで進展は早くない。期待にたがわず楽しめた一冊。 ボッ…

危険な美学

美学の持つ危険性を一般向けに訴える。例に出すのは作詞によって戦争協力者となった高村光太郎と宮崎アニメの「風立ちぬ」。美しいものは感性に訴え、真(知性)、善(理性)の価値判断を超越する力がある。芸術家は無意識のうちに美を追い求めるうち、美自…

革命と戦争のクラシック音楽史

標題の通り、新たな視点でクラシック音楽をとらえる。名高い芸術といえども時代の背景、流行には敏感であり、特に激動期にはその傾向が強い。フランス革命とナポレオンの時代は音楽にも変革を促した。音楽は近代的な軍隊の統率に使われ、やがて民衆の支持を…

フランス人がときめいた日本の美術館

フランス人女性による日本の美術館ガイド、東京、京都に加えて地方も紹介。ジャンルも幅広く網羅。古典から現代美術まで審美眼は確かなものがある。感性は日本人に近いがやはり現代的。本来の目的であるガイドとして手元に置きたい一冊。 -朝倉家住宅 -河合…

肖像彫刻家

主人公は売れない彫刻家。イタリアで磨いた腕は確かだが、芸術の域には届かず、親の遺産とバイトで食いつなぐ日々。とあるころから彼の作るブロンズ像にはモデルの魂が宿り、不思議な現象を引き起こす。作者の得意なモチーフではあるが、本作はコミカル仕立…

帝国ホテル建築物語

大正初期、帝国ホテルライト館の建築をめぐる物語。ライトの優れた設計と日本の卓越した職人技の結晶。現場は芸術家のライトとプライドの高い職人とで一触即発の危機の連続。やり直しが続き、工期は伸び予算は膨らむ。最後はお互いに理解尊敬していくが、ラ…

美術館へ行こう

中小ながら独特の価値観を示す美術館を紹介。それぞれの特色を格調高くセンスの良い文章と写真で案内するガイド本。北海道知床から鹿児島までを網羅する。美術館だけでなく博物館、文学館なども含まれる。おやつ紹介はご愛敬。まだまだ行きたいところが多い…

美貌のひと

古今の名画から、美貌の肖像画を取り上げ、そのエピソードを紹介する。ほとんど女性だが、なかには自画像を含め男性も。モデルと画家の両面から掘り下げ興味深い。ヨーロッパに今も続く身分意識の深さが繰り返し述べられる。図像はカラーで読みやすいシリー…

知れば知るほど面白い聖書の名画

タイトル通りの内容。旧約の神話部分と新約のキリストの生涯を描いた名画を紹介。その見方を解説する。女性の弟子を聞き役に仕立て、ギャラリートークでユーモアたっぷりに話を広げる。特に新約では知ってる内容が多いが、復習を兼ねて楽しみました。画像も…

運命の絵

著者の解説シリーズ。題材、登場人物や画家の運命を変えた作品を紹介する。意外と知らない作品や画家が多い。図番が改良され拡大図も入り見やすくなった。いつもながら史実への含蓄多く楽しく読めました。中野京子と読み解く 運命の絵作者: 中野京子出版社/…

岡本太郎の仕事論

岡本太郎本人の著作からその生き方と芸術性を確認する。戦前のパリに留学しながら、日本人の職業画家とは群れず、また認められた前衛画家達とのネットワークも利用しない。軍隊での鉄拳制裁も、言動への厳しい世評も甘んじて受けてきた。すべては自ら信じる…

この寺社を見ずに死ねるか

宗教学者である著書による寺社のガイドブック。大人の美学歴史旅行を目的とする。星別に3ランクに分けるが、基本的には美術的な価値によっている。このため神社の位置は相対的に低い。ほとんど探訪済みだが、星3つで私が未訪の場所は、西芳寺と三輪神社。…

ヘンタイ美術館

ルネッサンスから印象派まで各時代を代表する画家12名を取り上げる。代表作を紹介しつつその裏に隠された私生活のエピソードを山田教授が想像する。いずれおとらぬ大家だが、ある意味偏執的なところは否めない。世間の評価に安易に妥協しなかった証でもあ…

マグダラのマリア

西洋美術史を語る上で欠くことの出来ないモチーフ。娼婦から改悛し聖女に序せられた人生は格好の題材。後半生は洞窟で苦行したとは知らなかった。もともとそのストーリーは後付で男性社会にいいように解釈が加えられた模様。本書の肝はイタリア美術における…

若沖

奇想の画家若沖。その創作の謎を追う小説。商家の跡取りでありながら人付き合いが下手で、結果として若妻を自死に追い込む過去。ますます画業に逃げ込むが、恨みを持つ義弟が贋作者となり彼との相克が主題。代表作が次々と登場しその背景を画家の心情にあわ…

名画の謎対決編

シリーズ第四弾はタイトル通り、同じ題材で異なる画家の作品を解説する。有名どころが中心だが、知らない作品もまだまだある。蘊蓄に富む記述はユーモアたっぷりで読みやすい。著者の人気の源泉だろう。口絵もカラーで精細。期待通りの一冊である。中野京子…

モダン

NY,MOMAを舞台とした短編集。美術館で働く人々が主人公。モチーフは代表的な名画達。著者は元MOMAに勤務していた経験があり、細部まで知り尽くした物語が展開される。美術に魅されれた人々の思いが伝わる秀作。期待通りの内容。モダン (文春e-book…

美の概念60

タイトル通り美術鑑賞に必要な文化、概念を豊富なカラー図と共に解説。西洋は歴史順に細かく、日本はキーワードでやや定性的な記述となっている。今ひとつ判りにくい西洋美術史を短時間で復習できるのは有り難い。図版も美しい。類書は多いが手元に置いても…