2010-01-01から1年間の記事一覧
著者にしてはめずらしいクライムコミック。ふるさと創生資金で作られた黄金の地球儀を頂戴しようとする主人公。ドタバタで笑わせながら、しっかりペーソスも漂わせるあたりはさすが。作者自身が楽しみながら書いている感じがして、読む側もリラックスできる…
著者は筑波大名誉教授で生命科学の大家。愚直で真摯な生き方を若者に求める。根底には「感謝と利他の思想」。同様の著書多数のようだ。現在の研究は人間の精神面がいかにDNAに働きかけスイッチをいれるか。科学の真理を追い求めていくと、人間を超越したもの…
簡単に言えば「呪い」もの。明治時代開拓に酷使された囚人の霊が、現代にたたりをもたらす。現代の弁護士と明治の囚人の物語が入れ子構造で展開する。序盤の緊迫感に比べて、途中でやや物語が勢いをなくし無理矢理の結末を迎えた感は否めない。楽しめるレベ…
一人娘を暴行の上殺された父親が、不良グループに復讐する。暗いテーマに最初たじろいだが、著者の筆力に引き込まれる。背景には更正を主眼とし、刑罰の甘い少年法の問題がある。タイトルの「さまよう」は法と社会正義の狭間で戸惑う現場の刑事達の立ち位置…
これは師匠である深見千三郎へのレクイエムである。古き良き浅草芸人のスピリットを伝え、ビートたけしの芸の基礎を育てた。大学中退からストリップ劇場での修業時代、漫才師としての独立までが描かれる。ユーモアとペーソス。一流の書き手である。浅草界隈…
暴力事件により退職した刑事が、行先不明になった娘を捜索する。その課程で忌まわしい過去が明らかになっていく。ある意味よくあるストーリーだてだが、アウトローならではの暴力的な捜査が続く。別立てていじめの対象になった少年の独白が構成され、やがて…
冒頭日本人の歴史感はいかにアメリカ偏重になっているかを、ロシアとの関係を軸に説く。独自の情報ネットワークとシンクタンクの設立が日本のために急務。若者は読書とフィールドワークの両立を低減する。著者の著作は実は初めてだが、論理的で説得力に富む…
貧乏旅行の達人である作者が、格安エアラインを乗り継ぎ西回りに世界を一周する。同行はカメラマンとフリーターの若者。枝葉末節の情報が結構楽しめる。アジアとヨーロッパで定着度が異なるが、これはLCC歴史のなせるわざか。全体の雰囲気としてかっての貧乏…
ブログからの転載エッセイ。「食堂カタツムリ」が出版されブレークするめまぐるしく変化する日々のあれこれが記される。底辺に流れるのは同居人であるペンギン氏との生活。作者らしく食にはこだわっているようだ。あまり印象に残らない繋ぎの1冊。ペンギン…
日本のNo.1旅館にランクされる加賀屋の経営哲学に迫る。実は第2作で、2007の能登半島地震で被害を受けた当日の対応とそこからの復帰への道筋が焦点となる。接客掛よるきめ細やかなサービスを最大の商品とし、従業員を経営原資とする近代的な家族経営。…
中世ファンタジー。生まれつき病弱で外に出れない防具職人の娘が経営する店が舞台。防具を購入した客たちが生還し、彼女に聞かせる物語が、唯一の外の世界である。傭兵から軍人まで多くの客が彼女の人柄に魅せられ常連となる。初めて防具を送った幼馴染の初…
失業寸前のフリーライターが、都市伝説である殺し屋「死神」の謎に迫る。犯人と動機の特定は中盤で明かされ、後半はむしろ荒唐無稽なアクションものの様相を示す。ヤクザから女優まで多彩な登場人物を書き分け、重層のプロットをこなしているのは若さの勢い…
世界経済危機のルーツを70年代までさかのぼり俯瞰する。金融工学の第一人者だけあって、金融悪者論には反し、長期的な視野に立てば、日本は脱工業化に乗り遅れ構造的な陥穽に陥っているとする。根の深い問題。冷徹な第3者的な分析には共感。 日本はオイル…
著者のデビュー作。編集者として出版社に就職を希望する女子大生の独白形式。私小説に近い。厳しい現実にシニカルに立ち向かう。政治家である父の後継を巡るお家騒動。恋人であった老書道家との別離を借景に一夏が描かれる。早稲田の文学部の友人達との知的…
名門私立バスケ部でいじめにあった主人公が、都立の弱小校へ転校し愉快な仲間達とバスケ部を強くする青春モノ。中高生向けのハッピィストーリーだが後半の試合のシーンでは思わず引き込まれる。丁寧に書き分けてきたメンバー達の意外な活躍が楽しい。走れ!T…
型破りな官僚が大分の地でプロサッカーチームを立ち上げ、散々な苦労の末にJ1まで昇格させるが、チームは倒産。石もて追われる身となった。天性の人たらし営業マンは次々と一代で財をなした創業者をスポンサーとして招き入れる。まさに波瀾万丈の物語。作…
斜陽企業の女性管理職に銀行から派遣された「ロボット」取締役が投資を指南するというストーリー。別会社で新規ビジネスで成功するまでのサクセスストーリー。企業としての戦略立案から個人の財テクまで基本を丹念に説明する。繰り返されるのはリスクとリタ…
天才たけしと各界のトップとの対談集。小泉首相、検事総長、倒幕議長から金田、青木、北の湖とスポーツ界の巨人まで。本当のトップあるいは天才でないと分かり合えない感覚や孤独は共通。たけしはやはり話術の達人で、垣根を越えてよく相手の本音を引き出し…
対談と連載コラムで構成される。リーマンショック以降のたうつ日本経済と社会に活を入れるべく両者とも積極財政を強く求める。交互に執筆したコラムは論争になっていず、やや物足りないが、出来は小宮氏の方が一枚上。旬をすぎたせいかやや物足りない一冊。 …
著者は古美術のデジタル復元の第一人者。東大寺大仏殿をはじめ日本美術を初期の姿を仮想空間によみがえらせる。史実データと考証をベースにしているが、推測による部分も残るのは事実。IT技術を駆使して得られた世界は見る者を圧倒する。著者の真骨頂は単な…
副題はずばりJAL倒産。2009/9の民主党政権誕生から、2010/1の更生法適用までを朝日新聞の取材をベースに重厚なタッチで描く。JALをここまで追い込んだのは、国策会社としての官僚体質。エリート部門が保身に終始し、問題を先送りしてきたつけ。損益的…
久々の東野作品は、近未来異次元SF。ブラックホールの接近により生じた13秒間の時間の間隙に落ち込んだ11人の運命。警察官の兄弟を中心に必死に生き抜こうとするが、まるで彼らを抹殺しようとするように次々天変地異が襲う。ラストは予定調和を否めな…
著者は社会心理学者。古今の学術論文より「影響力」についてまとめる。基本はアメとムチからなる賞罰2つの影響力。それから派生する合計10種の影響力につき解説する。一般向けにわかりやすい例で示される。特に社会心理学上の実験の詳細が興味深い。全体…
太平洋戦争を題材にした短編集。一貫したテーマは下級兵士と民間人の関係。敗戦により崩壊していく陸軍組織の中で、原住民との関係も微妙となっていき、不幸な事件も数多く起きた。兵士の立場と人間としての良心の葛藤を描いた力作。ふたつの枷作者: 古処誠…
小中学校でいじめにあった二人の少女。優子は不登校となり、みちるは一人学校に残り戦う。子供達の持ついじめ特有の陰湿、残忍さと集団の力は、個人の力を超越する。卒業間近になってそれぞれ個人の中の小さな勇気と努力が身を結び、ほのかな希望は暗示され…
陸軍モノが続く。旧軍の組織、日常生活を初年兵と二年兵の生活実態を主に記録する。前半で紹介される現役と予備役のシステムは極めて合理的で、非常時に即応し、一気に戦力を買う銃出来るようになっている。中盤以降は戦史だが、この部分は饒舌。個別の戦闘…
戦記物。軍法会議をメインにしたのは珍しい。陸軍の法経システムはいかに不条理で上層部の支配のための道具に過ぎなかったことが克明に語られる。特に戦争末期の南方では食料調達に出て、そのまま不明になった兵員が脱走兵扱いされていたとのこと。飢えと疫…
自民党政権時代、財政を担当した著者の持論をまとめたもの。危機的な財政を救うには消費税は年金に目的化した上で増税し国民の負担を引き上げるべき。財政の専門家として筋は一本通っている。自分の業績を誇張することもなく政治からしからぬあたりが人徳な…
法廷モノ。副題にあるように裁判員裁判をさっそく題材にする。被告の人徳家はストーカーに殺された娘の恨みをはらしたとして殺人罪で訴えられる。肝心なところで黙秘するのは誰かをかばっているように思われが、公にしたくない家族の秘密がやがて暴かれてい…
維新後に聞き取りで書かれた手記を現代語訳。おりょうの視点から見た幕末史。伝えられるとおり気性の激しい一本気な女性像が浮かぶ。記述はかなり狭められた視界からの眺め、当時の彼女の置かれた立場や情報量からはやむをえない。明治後の不幸な半生は意識…