2010-01-01から1年間の記事一覧

君に続く線路

舞台は戦前の炭鉱鉄道。中年の保線士と深窓の令嬢の淡い恋。親の決めた見合いを断り続ける気の強い令嬢が、鉄道にすべてをささげた一本気な男に徐々に魅かれていく。単純なストーリーだが山場もしっかり用意され、読み応えアリ。デビュー作とは思えない力量…

八月の舟

舞台は北関東。やや不良ぶる高校生の初恋と突然の母親の死。斜に構えた主人公は作者の投影か。若い頃の習作というイメージもあるが、鮮烈ではある。初版は1990年。メールもネットも無い時代でもある。八月の舟 (ハルキ文庫)作者: 樋口有介出版社/メーカ…

実伝直江兼続

対談や過去の著作より文武を備えた希代の武将の実像に迫る。「天地人」ブームのあやかり本。謙信の後継争いでは古風な武人である景勝を助けるが、石田三成との盟約により、家康にに一代決戦を挑む。編集であるため有名なエピソードは読みにくい。やはり本編…

ネット帝国主義と日本の敗北

ネットがもたらす危機を論評。現在はもたらす利益はプラットフォームレイヤーに集中し、コンテンツレイヤーは疲弊している。これはジャーナリズムと文化に危機をもたらす。一方でプラットフォームはほとんどがアメリカ企業が独占。国家戦略にも問題が大きい…

RAILWAYS

映画のノベル化。脚本家が担当。役員就任を目に前にしたエリートだが、無二の親友や家族の繋がりを犠牲にしていたことに気づき、人生を大転換する。49歳にしてバタデンの運転士に。暖かい出雲地方の光の中で、スローだが人間味のある本当の人生が始まる。…

ブギウギ

大戦末期。来航したUボートの艦長が、隔離された箱根で不審な死を遂げる。調査にあたった通訳のドイツ学者の戦後に及ぶ操作。一方で旅館の女中は新時代を迎え旧弊から解放されジャズ歌手として新たな人生を切り開く。理念に固執する男と、心と情熱で立ち向…

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ユニコーンの日

ガンダムシリーズのノベライズ。まあ面白かったがメカニックSFを文章化することには限界がある。読者がある程度知識を持つことが前提となっている。焦点はむしろ人間ドラマ。完結しておらず続編あることになっているが、微妙。ユニコーンの日(上) 機動戦士…

七転び一置き

感動的な自伝。渥美清の付き人を皮切りに、芸能界の裏方として活躍し、ミュージカルの世界で成功した著者が、一転倒産自殺を試みるところまで転落する。隠遁先で子供達と流れ星を見た夜がターニングポイント。飛び込んだ歩合制のリフォーム営業で「皆川メソ…

空飛ぶタイヤ

明らかに三菱自動車のリコール問題を題材にしたフィクション。トラックのハブ不具合により起こった死亡事故により、経営の危機を迎えた中小運送会社社長の懸命の戦い。自動車メーカー、銀行とも大企業の論理をたてに弱者には非情である。取引先も保身のため…

乙女シジミの味

エッセイ集。日経夕刊への連載は2001年から2007年。初老の夫婦と犬猫の生活だが、決して枯れることなく、時事ネタにも鋭く切り込み、批判精神も忘れない。立ち位置はきわめて常識的な知識人。古書店主らしく圧倒的な読書量と知識がバックグラウンド…

乳と卵

芥川賞受賞作。豊胸手術を目論む母親と初潮前の娘の反目。母親の妹の視線で女性の赤裸々な心情を描く。大阪弁である意味えげつなく、直情的な吐露が続く。クライマックスで卵を割りながらのぶつかり合いは壮絶。他に短編を併載。正直評価は微妙。1143乳と卵…

ROMES06

関空で開催中の宝石展を襲う国際犯罪組織。プロ集団に立ち向かうのは最新のセキュリティシステムとその運営責任者。怜悧な頭脳で先を読み、見事防衛に成功する。多数の登場人物が輻輳的に絡み合うが、書き分けはプロの仕事。休日を楽しめるエンタメだったが…

明日のリーダーのために

著者が自らの経歴をベースにリーダシップ論を展開する。国鉄の本社採用の幹部候補生であり、分割民営化の実行者。政治と官僚の入り組んだ権力闘争を凌いで、民営化、上場を成し遂げる。記述は実名入りでかなりなまなましい。立場は右寄りで日米同盟を基軸と…

クラリネット症候群

「症候群」2作を収録。「マリオネット」は被害者が殺人者の体内に入れ替わるという奇抜な設定であるが、あまり深みはない。笑わせてもらいましたが。「クラリネット」は暗号解読がキー。これも平坦。ドレミを抜いた台詞廻しは正直しんどい。いずれも軽め。…

池袋ウエストゲートパーク。

主人公は地元で実家の果物屋を手伝いながら、トラブルシューターとして活躍する。不良たちからも一目置かれる存在。ヤクザ、薬物、水商売と危ない世界から少年少女を守ろうとする。体言止めを多様。短い文体と展開の早さで読者を引き込む。ウエストゲートパ…

オルセー美術館展

人気の印象派画家の代表作がずらりならぶ。逆に言えばどこかで見たことのあるモチーフがほとんど。パリで見ているはずなのだが。メジャーなところはあきらめ後半に絞って鑑賞。ルソーの「蛇使いの女」をじっくり観れたのが最大の収穫。「戦争」も強烈な印象…

防衛破綻

副題は「ガラパゴス化」する自衛隊装備。長期間に及ぶ少数発注と国産信仰により制式化時点から時代遅れになる自衛隊装備。税金の無駄遣いも甚だしい。一部には利権が絡む。真実だとすると馬鹿げた話。単純な解決策は武器輸入することであるが、関連産業の育…

犬の足あと、猫のひげ

女流写真家のエッセイ集。元々は写真集用の文書のようだ。写真の題材は犬、猫、廃墟と硬派なものが多い。文中には世をすてたような人々が描かれる。悪くない。犬の足あと猫のひげ (中公文庫)作者: 武田花出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2010/02/01メ…

マグネシウム文明論

東工大矢部研究室の成果を紹介する入門書。次世代のエネルギー源として海水に多く含まれるマグネシウムを利用する。太陽光から発生させるレーザーによる溶融精製でリサイクルループを形成し、化石燃料に取って変わる。すでに実証実験の段階にあるが、机上の…

クジラの彼

自衛官の恋愛を描いた短編集。独特のタッチで笑わせながらほんわかさせる。特に女性自衛官の純粋で直線的なアプローチが微笑ましい。自衛隊賛美=右傾化うんぬんを気にするのは不粋というもの。シリーズらしいので読んでみましょう。クジラの彼 (角川文庫)作…

変わる世界、立ち遅れる日本

世界同時不況後の世界経済を俯瞰する。主たる論点は二つ。日本の再生のためにはGDPの7割をしめるサービス業の発展が不可欠。規制緩和による競争原理の導入が望まれるが、縮小する国内市場のみでは難しい面もある。原油高は新エネルギーの開発を促すので…

ジョーカーゲーム

陸軍の秘密スパイ養成所D機関。カリスマ的な指導者結城中佐のもと超人的な能力を持つ人材が集められる。陸軍中野学校を参考にしているが全くの創作。短編連作形式になっており、生徒たちとそれを指揮する中佐の活躍を描く。戦前でありながら陸軍や国家への…

星の見える家

短編集。女性心理の描写にに主眼を置いたミステリー。どちらかというと中年女性ものが多い。いずれも巧みなプロットであるが、謎解きは途中であるていど推測がつく。ここは作者の意図的なところかも知れない。エンタメとしては十分。星の見える家 (光文社文…

世界の経済が一目でわかる地図帳

タイトル通りの内容。豊富な地図で最新の経済データが説明される。一般向けで大半がよく知られた内容だが、中には面白い視点もあり、期待以上の内容。 インドのIT産業を生んだのはアメリカとの12時間の時差。昼夜分業。 カリーニングランド、ロシアの飛び…

頑固力

岡田監督が、自らの野球理念を語る。1−0で勝つのが理想とし計算できる守りの野球を実践した。阪神生え抜きには珍しい確固とした理論派。その一方で個人の記録を思いやる暖かい人間性も見せる。これなら下はついてくるだろう。現役時代の掛布、コーチ時代の…

神様のカルテ

著者は信州の病院に勤める内科医。自らをモデルに漱石を愛してやまない古風な考えの持ち主を主人公に据える。勤務医の激務、死期を待つ末期患者との向かい合い。先端医療を求める大学医局と最前線の地方病院の温度差を創作にこめて綴る。主題は明確で人生と…

食堂かたつむり

突然の失恋で声を失った主人公が、故郷の町で一日一組限定の食堂を開店する。ここで食事をすると願いがかなうと評判を呼ぶ。その陰には故郷の心やさしい人々の協力と、主人公とは不仲であった母親の暖かい親心があった。母親は病に倒れるが、覚悟の上での結…

ターン

交通事故をきっかけに時間の狭間の無限ループにはまった女性。奇跡的に現在につながった一本の電話が純愛を育む。時の呪縛から抜け出すのは前向きに生きようとする意志。もともと何故か二人称で語られ、前半はやや読みにくかったが電話の辺りから一気に緊迫…

プチ修行

作者と女友達がさまざまな修行を体験する企画モノ。座禅、写経の軽めのものから、断食、滝、遍路とハードなものまでカバー。エッセイと漫画で構成。面白おかしく書いているが、常に批判精神は健在で一般人にとっての悟りや人生の目的と結構掘り下げは深い。…