群青

初代海軍総裁であった矢田堀景三(鴻)の生涯を描く力作。優れた学者であり技術者であったが時代の要請により、幕府海軍の創設と育成に携わる。幕臣でありながら葛藤の末に旧体制に見切りをつけ、如何に海外列強の侵略に対抗するかに心を砕く。これには師であり条約締結に奔走した岩瀬忠震の影響が大きい。維新後は反乱を起こした部下の榎本武揚が評価され、それを止めようととした矢田堀は不遇であった。二人の妻に先だたれ、子供も震災で亡くすなど家庭的にも恵まれない一生であった。教育者として多数の有才の弟子を育てたことに作者は暖かな光をあてる。方法論の差より反目した勝海舟は軍政家として後半評価される。女性作家とは思えぬ歴史硬派の力量。文句なしのA評価。少し読み込みたい。

  • 歴史に名を残すのは戦争をしたものばかり。戦争に反対したものは評価されず、名を刻むことはない。だが「私は歴史に名を残さないことをむしろ誇りに思う」
  • 「青は藍より出でて、藍より青し」。弟子が師匠を超えること。多数の弟子が「群青」となる。


群青―日本海軍の礎を築いた男

群青―日本海軍の礎を築いた男