文庫旅館で待つ本は

連作集。小さな旅館が舞台。戦前の蔵書からなる文庫があり、若女将が客の悩みに応じた一冊を推薦する。同じ匂いをかぎ分ける特殊能力のなせる技。全5編の前半は軽めだが、後半にかけて重みを増し、最終編は文庫の成り立ちまで遡る。それぞれの1冊があるが最終編は漱石の「こころ」。メルヘンチックな解決ではなく、人間の善悪の本質に迫るテーマ。なかなかの秀作である。思った以上の読み応え。

 

 

 

キャラクターたちの運命論

大ヒットした少年漫画5編を取り上げ、民俗学的な検証を行う。主人公ではなく脇役に焦点をあてる。いずれも原作を完全には読んでいないので今一つ理解が進まない。逆にマンガ自体がよく構成され、それは伝承文学にも通じていることに感心する。

 

 

 

一日一文

古今東西の名著を365日分紹介する。範囲は哲学から詩歌まで幅広い。有名どころはほぼ網羅されているが、非常に短い引用なので、逆に主張がわかりにくい。スタンプラリーのお供で読破。

 

 

 

 

旅する練習

小説家である著者とサッカー少女の姪が、我孫子から鹿島まで利根川沿いを徒歩で下る。著者が風景を描く間に、姪はリフティングの練習。快活な彼女が旅を朗らかなものにする。途中知り合った女性との出会いと別れが、少女の心の成長を導く。ところがラストは彼女の事故死という衝撃。受け入れがたい過酷な運命。人生は小説のようにはならず厳しい。

 

 

 

90歳の人間力

人生訓。短めの文章で人の生き方を簡潔に諭す。全編を通じて、失敗が人を大きくする。恐れずに挑戦することを強調。日本人は目で考える、すなわち外見や名前に惑わされ、本質を見極める力が乏しいとの指摘。既出の著作からの焼き直し。ご本人は2020年に逝去されている。

 

 

 

バスクル新宿

新宿バスターミナルを発着する長距離バスを舞台にする連作集。各編軽いミステリー仕立てで、思わず引き込まれる早い展開。結局はみな良い人たちで、ハッピーエンドのメルヘンタッチ。エンタメとしては楽しめた。巨大バスターミナル自体への興味が少し湧いたかな

 

 

人物名鑑古今東西いま関西

古今東西の人物短評。著者の専門から思想史、哲学史にページを割く。タイトルにある関西部分は冒頭の第一章だけ。哲学、古代ローマ史についてはこちらの知らない人物が多く、イメージがついて行かない。教養不足を露呈する結果に。読破は正直しんどかった。聖徳太子創造説は少し興味あり。