奇跡のリンゴ

無農薬、無肥料の自然農業でリンゴの栽培に成功した青森のリンゴ農家。ＮＨＫ「プロフェッショナル」で茂木健一郎が伝えきれなかった部分をルポライターである著者に託した。周囲には「絶対不可能」「カマドケシ」と揶揄されながら、泥臭い執念で目標を達成する。成功を導いたのはリンゴ畑を取り囲む大きな自然体系を作り上げること。偉いのは人間でなくリンゴの木であるとあくまで謙虚。功なりいくらでも高値でうれるであろうリンゴを少しでも多くの人に自然農法の良さを知ってもらうため、安価で販売する姿勢には脱帽する。もともと農業とは自然を人間のために利用する罪深い業であり、文明は環境を破壊してきた。現代のノアにたとえるのはやや大げさに映るが、密着取材してきた著者には不自然ではないのだろう。自殺を覚悟し赴いた山奥で、自然の椎の木に巡り会い悟りを開くシーン。９年ぶりに花をつけた自らの畑を妻と観に行くシーンは感動的。ＴＶの焼き直しかと思っていたがとんでもない名作。現在のところ今年No.1。

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録