お腹めしませ

時代物の連作集。江戸末期の下級武士とその家族を描く。いつものごとくコミカルでありながらペーソスにあふれる人情者。親子と男女の情愛をしみじみと描く。家名を大事にする武士に対し、なによりも大切なのは人間そのものであるという現代的な視点を与える。表題作の「お腹めしませ」と不倫の妻を成敗しようとする「女敵討」が良い。作者が後書きで書いているように創作と史実は矛盾するため、歴史小説は文学と史学の不義の子であるとする例によって安心して楽しめた。

お腹召しませ

お腹召しませ