凍りのくじら

年齢の割に覚めた自我を持つ女子高生である理帆子が主人公。表面的には社交的だが誰からも必ず距離をおく「少し不在」な存在。自らの死期を悟り姿を消した高名な写真家だった父。病床で死を間近に見据える母。精神を病みストーカーとなる元恋人。父の親友の複雑な家庭事情。元恋人のストーカー行為のエスカレートと母親の病状の悪化につれてストーリーはクライマックスを迎える。恋人役となる一学年上の先輩は実は父親の化身であったという結末には驚かされしてやられたという実感。周囲の温かみが理帆子を喪失の孤独感から救う。名前の読みは本来は反則だろうが気にならない。章ごとにドラエモンの不思議な道具が登場し重要なキーとなるあたりは新感覚。楽しみな作家を知ることができてうれしい。A評価。990

凍りのくじら (講談社ノベルス)

凍りのくじら (講談社ノベルス)