虹の岬

「老いらくの恋」で有名な歌人川田順の人妻への純愛を描く。川田は東京帝大卒、住友のエリートで将来を嘱望されていた大人物。一方で強圧的な陸軍に屈しなかった硬骨漢としても描かれている。彼は一度苦しみ抜いて自殺未遂を起こしている。この色恋沙汰の騒動と戦時中の愛国短歌が批判され二人は不遇な戦後の一時期を送ることになる。ストーリーは川田とその恋愛相手である大学教授夫人「祥子」との両面から描かれるが、お互いに純粋で高邁すぎて読む側がやきもきするような進展。単なる男女の関係を超えた美しい情愛が、折々の短歌にのせられて綴られる。歌壇に詳しくない私には読後感は正直やや重い。

辻井喬は西武の総帥堤清二ペンネーム。