日本の行く道

不思議な一冊。閉塞感のある日本社会の原因を過去の歴史に求める構成になっているが、作者自身も認めているとおり、仮定は極端であり、主張は現実性を無視している。端的な例は地球の温暖化が始まる1960年代まで社会を戻すべきという論点。それぞれの論拠は下記の通り説得力はある。

  • 1985年に中曽根首相が貿易黒字の解消のため国民一人あたり100ドル相当の外国製品購入を呼びかけた。これが日本人に豊かさを実感させる結果となり、「もうあんまり勉強しなくてよい」「不必要な勉強をさせられている」という雰囲気になり、教育の崩壊につながった。
  • 明治/昭和の政府はそれぞれ西欧に打ち負かされた薩長政府のトラウマに支配された。大多数の日本人はこれを経験しておらず、政府主導の近代化路線を心底からは理解できていない。
  • 日本は1980年まで「経済戦争」に勝利していた。その頂点で戦後処理が出来ず、すなわち次なる目標設定ができず、最終的にバブル崩壊による敗戦を迎えた。
  • 日本が経済戦争に勝利した要因は「物を作り、さらに良い物を作ろうとする職人のレベルの高さ」にあった。敗北したのは国家の方針であり、必要性を感じていなかった民間が行き詰まった訳ではない。

日本の行く道 (集英社新書 423C)

日本の行く道 (集英社新書 423C)