だれが本を殺すのか

未曾有の出版不況に対する要因を「串刺し」的に明かそうとする本格的なルポルタージュ。仮にも乱読家を称する人間としては外せない1冊でした。書店/流通(取次)/版元/編集/図書館/著者と各分野を念密に取材する。いずれに対しても批判の眼は厳しく、制度疲労を起こしている現代の出版業界に警告を発する重厚なノンフィクションになっている。2001年の出版だけに最終章の電子出版に関する部分はやや古いが、それは今頃「図書館で借りて」読んでいる読み手の責任。

だれが「本」を殺すのか

だれが「本」を殺すのか


以下抜粋多数

  • 新規出版の40%は再販制度により返本される。再出荷にまわるので、実際に破棄されるのは10%程度。
  • 大手書店の出店ラッシュによって、全国の書店の「金太郎飴化」が進んだ。どこに行ってもベストセラーが平積み。それに拍車をかけたのは出版元の報奨金制度。
  • 書店側は拡大政策により、人材枯渇。岩波新書を知らない店員も。
  • 大型書店には後背地に知的程度の高い人が住んでいないと成立しない。このような立地はバブル前に全国主要都市に出店済み。(紀伊国屋松原会長)
  • 産業構造からいえば、書店はフロー、図書館はストック。日本の公共図書館向け扱いは3%以下。アメリカは20%、ヨーロッパはさらに比率高い。
  • ブックオフから本を買って返品し、利益を上げる書店がある。
  • 日本人が1万人いれば、海外でもブックオフは成り立つ。
  • 中央公論は読売新聞が買収し、中央公論新社となった。ブランドバリューが目的。経営的には高い買い物?
  • 出版社では編集者が出世する。経営には必ずしも明るくない。文壇時代の残滓?
  1. 本屋を見ればその街の文化程度がわかる。
  2. 存続するということは変わるということだ。
  3. このままゆけば日本の出版界は必ず安きに流れる。

(米子 今井書店3代目)

  • 2000年現在、セブンイレブンは雑誌を含めると紀伊国屋を上回る売り上げをもつ日本一の書店である。鈴木会長はトーハンに在籍していた。
  • 「一人は強く、多勢は弱い」中内ダイエーが地元の反対にあっても、最終的には出店する理由。カリスマである中内氏の反対派の仲間割れとは無縁。
  • 幻冬社が出す本には以下の3種類
  1. 著者にも編集者にも決定的に良い本と信じられ、しかも売れる本
  2. 良い本と信じたが売れなかった本
  3. 良い本とならなかったが売れた本
  • 幻冬舎は見城社長のワンマン経営だが、出版に対する熱情という意味で古い体質を有している。安定した財源である雑誌を持たず、ベストセラーに頼る自転車操業
  • 新聞=インテリが作ってヤクザ(販売店)が売る。
  • 書籍=高級のエリート(編集者)が作って、薄給の書店従業員が売る。
  • 地方出版社は現在は第3世代だが「やれる企画はすべてやってしまった」のが問題。個性的な経営者が多い。
  • 編集者は花形職業と錯覚され、大手ではエリートが職場を占めるようになった。偏差値の高い彼らは目的地へたどりつく最短距離を知っており、新人作家の発掘、育成はせず、既成の作家の虚名にすがるようになる。
  • 図書館は売上に相当する貸出実績を上げるため、ベストセラーを大量に購入する。リクエストする読者側にも責任はある。