外交敗戦

寮の共用書棚に誰かが残した文庫本を拝借。以前から気になっていた著作である。湾岸戦争に日本は憲法の制約で実戦部隊こそ派遣しなかったものの、130億ドルもの資金を多国籍軍に援助した。しかし国際社会ではこの事実はまったく評価されていない。すでに15年以上前の歴史になりつつあるが、日本人の誰もが釈然としなかったこの真相に迫る。この外交上の敗戦の原因は外務省と大蔵省(当時)の省益を重視した争い。本来危機に際し一体となるべき政府が全く機能していなかった。政治的に英断を下したとして高く評価されている橋本蔵相もこの省庁間の壁を越えることができなかったとしている。
クエートで命をかけて邦人だけでなくアメリカの外交官をかくまった大使館員。イラクの軍事基地で人質となった日本人の決死の覚悟の手紙。輸送船を仕立てるのにも苦労する日本政府。そしてイランへ避難したイラク空軍機の謎。と主題以外にもエピソードをちりばめ、湾岸戦争を包括的に読者の前に再現してくれる。地道な取材とジャーナリストとしてのネットワークを活かして仕上げた重厚なドキュメンタリー。アメリカ政府要人のバックグランドと人物像まで丹念に描いて印象的。評価は「Aでも良いがなぜかB」。わずかだが完全にのめり込めない部分があったため。

外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)

外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)