ブレイク

地熱発電推進が主題の架空小説。日本は火山国で恵まれた環境にありながら地熱の有効利用は極めて低い。環境問題や温泉組合の反対が直接の原因だが、計画から10年以上を有するスケジュール。巨大な投資が遠因でもある。一方で原発の再稼働は難しく、化石燃料カーボンニュートラルの問題もある。将来の電力不足に備えて、推進派の政治家、官僚、業界が状況を打破する。新しい技術として超臨界地熱発電に期待がかかるが、地中5Kmの深度掘削と耐圧高温対策が必要

 

 

歌われなかった海賊へ

第二次大戦末期のドイツ。ナチスに反抗する若者のグループ「エーデルヴァイス海賊団」。様々な事情を抱えながらそこに身を投じた4人の物語。立ちはだかるのはゲシュタポヒットラーユーゲントさらに一般の大人たちの無理解。若く純粋な彼らは理想に向かい活動する。強制収容所に向かう鉄路を爆破。ただその事実は歴史上から抹殺される。あまり知られていないが実在したらしい。内容的には普通のアクション小説の域を出ないか。評判の割にもうひとつ。

 

 

 

 

 

 

人はどう老いるのか

著者は作家であり医師である。ディケアセンターで多くの老人たちの症例に接する。前半はエピソードの羅列。中盤から現在の医療の限界を明示。誰もが避けられない老いと死への準備を説く。結論は全てを泰然と受け入れること。これには全く同意する。良くここまで踏み込んで書けたなと正直有難く思う。勇気をもらえた読者は多いのではないか。

 

-認知症は今しか見えない。心配が消える自然の恵。

-がんになったら標準治療を受ける

-人生で得たものが多い人ほど、失うつらさが大きい

 

 

 

 

 

ラウリクースクを探して

ソ連時代のエストニア。黎明期のパソコンでプログラミングに勤しむ少年二人が主人公。主人公は独特の性格で孤独。唯一の理解者が親友であったが彼はロシア人。やがて革命の波が二人の運命をもてあそぶ。主人公は一時コンピューターから離れるがその後消息不明に。モスクワで記者となった友人がやがて人伝いに探し当て、再会を果たす。実は記者がこの作品自体の語り手だったというところが隠しプロット。ある意味無名人の人生を通して、激動の時代のバルト三国を描く。独特の雰囲気と筆致で愉しませる。

 

 

スピノザの診察室

舞台は京都。有能な消化器内科医師である主人公は、早世した妹の遺児を育てるため、医局を辞し、街中の病院勤務医となる。老人患者が多く、看取りを重ねる日々。哲学に造詣が深く、医学の持つ意味を持つ意味を常に問う日々。クライマックスは子供の内視鏡手術。大学に潜り込み後輩医師のサポート役で見事に成功させる。スピノザの哲学は難解だが、人間賛歌。好物の京の甘物がアクセントになる。一気に読ませる。評価は高い。

 

-人間に出来ることはほとんどない。それでも努力は尊い

-矢来餅、阿闍梨餅、長五郎餅

 

 

 

 

ソルハ

アフガニスタンを舞台にした児童文学。カーブールの中流家庭が舞台。主人公は就学間もない少女。長い内戦が収まり、ようやく平穏が訪れたかに見えたが、タリバンによる圧制が始まる。女性の権利を否定し、教師であった母親は射殺される。アメリカによる空爆の後、解放されるが一般市民にも多大な犠牲が生じた。悲惨な状況の中でも未来を信じて英語を学び続けるヒロイン。平和な日本の同世代の子供たち、あるいは親の世代にも自分たちの問題として、考えて欲しいために書かれた一冊。ソルハとは平和の意味。

 

 

 

夜が暗いとはかぎらない

大阪近郊が舞台。閉鎖が決まったマーケットのゆるキャラが失踪。その後周辺に出没し、話題となるが、主題は様々な人間模様。13編の連作だが、基本は暖かなもの。お約束通り、最後に関連付けようとするが、少し欲張りすぎか今一つ関連がよくわからない。ゆるキャラの中に入った対人恐怖症の青年が成長していく姿は微笑ましい。まあ普通の出来。